少女はある日突然、殺風景な壁の中から連れ出された。
 病衣と紛うような衣服の代わりに歳相応のブラウスやスカートが与えられ、難渋の末、少女はそれを身につけた。
 手をひかれ、ついていった先は豪壮な邸宅だった。
「今日からここがおまえの家だ」
 少女はその言葉を理解したが、「家」という概念を正確に把握する事はできなかった。ただ、これから生活する場所になる、という認識だけが存在した。


Akino-ya Banka’s Room Evangelion SS 
「Angel’s Summer」
夏服 最後の日 Ⅱ reboot

 「侵入事件」とだけ呼ばれる、内部でも極秘扱いのその出来事があったのは、数年前のことだ。
 ある巨大なグループ企業が所有するサーバから、膨大なファイルが消え、あるいは破壊されたのである。仕掛けられたウイルスによりバックアップも殆どが消滅し、その一群のファイルの中で意味を留めるものは残らなかった。
 だが、その企業は侵入の事実どころか被害を受けたファイル・・・「死海文書Dead-Sea Files」の存在すらも否定した。
 何の前触れもなく数人の幹部が更迭されたが、それによって企業が揺らぐ事などあるわけもなかった。
 事件は葬り去られたのである。

***

 梅雨明けとも聞いていないが、連日うだるような暑さが続いていた。夜になっても熱気を抱いた空気を遮る為に窓は閉められていたが、エアコンが効いていて室内は適温が維持されている。だが、こもった熱に噎せるかのような・・・苦しげな息遣いがあえかに部屋の空気を揺らしていた。
「・・・約束が、違い・・・ませんか・・・・」
 シャツのボタンをすべてはずされた格好でも、タカミは努めて冷静に抗議した。・・・・あくまでも、努めて。
「『泊るのは構わない』って許可は貰ったぞ」
「『構わないけど仕事の邪魔はしないでください』って言ったでしょう」
「言ったか?」
 軽く応え、襟を押し開いてくちづける。早速邪魔をしながら、いけしゃあしゃあとしたものである。見かけよりはるかに責任感が強く、役割を放り出したことは一度もないマサキだが、この性癖だけはいただけない。
「・・・・った・・・得手勝手な耳なんだから・・・・・っ・・・・」
 小さく身体が跳ねる。
「・・・・・遅れたら・・・どうしてくれます」
 熱にうかされながら気にかかっているのは、明日のこと。「家」で育った皆が一人残らず集まる恒例の夏休み。土壇場で仕事を突っ込まれたタカミは既に合流を遅らせている。それでも、明日の朝一番で報告書を出せたら無罪放免だ。
 本来なら今日の夕方には合流出来たはずで、その為に既にマサキが迎えに来ていた。状況が判明してからすぐに携帯に連絡を入れたのだが、一足遅かったのである。待っていたマサキに出直すのも大儀だから泊めてくれ、といわれて、タカミに断る理由があるわけもなかった。
 ―――――――それが間違いのもと。
 2時間ほど仮眠を取りたいから、起こしてくれるように頼んだのは…断じて、こういう起こし方を依頼したわけではない。
『構わんよ。確かに眠たいの我慢して宵っ張りするより、一度寝といた方が能率があがるだろう』
 そう言いながらTVを切って、読みかけの雑誌を開いたマサキに、じゃあお願いしますと寝室に引っ込んだのは確かにきっちり2時間ほど前のことではあった。枕元の時計はそれを教えてはくれたが、マサキをあてにしてアラームをセットしてはいなかったから…大きくはないが鋭い音でこの状況を止めてくれることを期待するのは無理だった。
「・・・・・イヤなら、やめる」
 ふと身体を離し、真顔で問う。タカミは思わず視線を逸らした。
 タカミが一言「いやだ」といえば退くつもりで、なおかつそんな事は絶対にないと確信している辺りが更に度し難い。
 無論、それを許容するほうにも少なからず問題はあると…タカミ自身思うのだが。実際…時と場合を考えて欲しいだけだ。
 目を逸らしたまま細く吐息して、突っ張っていた腕を下ろす。
「・・・・・・」
 呟いた言葉はあまりにも低く、マサキはそれを聞き損ねたが、首筋に新たな印を刻むことでそれにいらえた。その動作に、ベッドから滑り落ちたタカミの腕がかすかに引き攣って掠れた声が上がる。
 しかしその手は、一度握りしめられてから、低いベッドサイドテーブルの下に滑った。
「・・・・・・っ!!」
 弾けるような音がして、呻いたのはマサキのほうだった。瞬間、全身を走り抜けたショックに四肢が力を奪われ、その場にずるずると倒れこむ。
「何・・・」
 倒れこんだマサキを一応支えたが、するりと躱してベッドに放り込む。入れかわりに立ち上がると、簡単に身繕いして振り返った。
「・・・サキ、大丈夫ですか?」
「・・・ちなみに何した、今?」
 突っ伏したまま、マサキが呻くように言った。
「スタンガンですよ。手製ハンドメイドだから電圧低いけど。構えてなかったら結構効くでしょう?」
「んな物騒なモン手作りするな!ついでに言えば俺で試すな! 構えてたってどうにもなるか!」
「自分で試したいとは思わなかったので」
「おまえなぁ・・・」
「ま、しばらくおとなしくしててくださいね」
 にっこり笑って、手の中のペンライトに似た物体をテーブルに置く。パソコンを起動してキッチンへコーヒーを淹れに行き、戻ってくるとおとなしくなったマサキを置き去りにさっさと仕事をはじめてしまった。
 常になく強硬に躱された格好のマサキは、しばらくそのままごろごろしていた。別にショックが強すぎたわけではなく、躱されたことが面白くなかったからに他ならない。
 ややあって緩慢に身を起こしたが、先ほどまで自分が座を占めていたリビングのローソファに戻るとまた身を沈める。
「・・・・何か、あったな?」
 マサキの低い問いに、タカミの手が止まることはなかった。少なくとも、キーボードを叩く音を聞く分には。
「・・・・ちょっとね。一週間ばかり前から、どうも通勤の時につけまわされているようなんです。多分、ここの外にも張りついてると思うんですけどね。特に何を仕掛けてくるわけでもないんで放っとこうかとも思ったんですが、たまたま資材部で部品を幾つか貰ったので・・・・試しに作ってみたんですよ。まだ実用に供した事はないですが」
「きっちり実用に供したじゃないか、たった今」
 まぜっかえしたものの、マサキの顔は笑ってはいなかった。酔いのさめていない頭を叩き起こすかのように、眉間を軽く叩く。
「・・・まさかと思うが・・・」
 声を低くしたマサキと逆に、タカミは殊更に軽く言った。
「・・・今更、って感じでしょう。あのことがばれるのならもっと早くばれていた筈だ。死海文書が消滅して益を被った人間なんて、連中がその気になればすぐに調べがつきますよ」
「しかしおまえも変だと思ったから、あんな物騒なものまでこしらえてたんだろう」
「・・・」
 マサキの指摘に、タカミは沈黙した。
「何もかも一人で解決しようとするなよ。なんとなれば、警察でもなんでも・・・」
「警察が味方になってくれるとは限りません。・・・殊に相手がもし、連中だったら・・・」
 タカミの声は硬い。マサキは吐息してそれを制した。
「それでも、自分一人で迎え撃とうなんて思うな。人の命なんて何とも思ってない連中だぞ。どうでも警察が信用できないんなら、せめて俺には連絡しろ」
「はいはい」
「お、鼻で笑ったな?」
「笑ってなんかいませんよ」
 少し慌てたように打ち消すが、マサキの声は、決して怒ってはいなかった。むしろ…。
「…今更だが、これだけは信じろ。俺はおまえにすべて一人で抱え込ませる為に、『誰にも喋るな』って云った訳じゃない…」
 思わず手を止めて、? ??カミは椅子を返した。
「…」
 何かを言おうとして、口を噤む。結局、そのまま再び仕事に向かう為に椅子を返しながら、小さく呟く。
「…知ってますよ、サキ…」
 それが聞こえたかどうか。マサキは小さく欠伸して、体勢を寛げた。
「少し…寝る」
「そうしてください。僕も、居眠り運転に命を預けたくはありませんからね。・・・・ベッド、使ってください。どうせ僕はゆっくり寝てられそうにありませんから」
 そう云って、寝室を指差す。マサキは指された先を一瞥して、また目を閉じた。
「…ここでいいさ」
 無造作な返事が持つ意味に気づいて、苦笑しながら仕事に戻る。
 意図の見えない追跡者の影。別に、一人で居るのが怖くなるほどの脅威を感じたわけではなかったけれど…。
 結局、タカミの報告書ができあがったのは朝方で・・・殆ど睡眠をとらない状態で車に揺られる破目になった。その結果は・・・いうまでもない。

――◇*◇*◇――

「Angelの刻印を受けた生存者は、カヲル君までで17名。AngelのNo.も17で止まってる。でも、家に集められた子供は15人。死んだナギサさんをふくめても、一人足りない。研究所の親会社が隠匿していたとしたら、合点が行くと思いませんか。
 ここらにある別荘の所有者を片っ端から検索してみました。・・・出ましたよ。あの研究所の所長を勤めていた男の名義のものがね。それも、ごく近所に」
「タカミ、おまえ何考えてる・・・?」
 タカミは顔をあげ、マサキを見た。ゾクリとさせるような、不思議な翠。
「コードAngel-02。・・・どんなに手を尽くしても見つからなかった、二人目の生存者」
「・・・・考えすぎだ」
 思わず目を逸らして、マサキは断じた。
「休暇に来たんだろう、もう少し神経休めろよ。例ストーカーのことで、少しピリピリしてるんじゃないか」
「・・・・そうかも、知れません」
 ことり、と頭を廃船に凭せ掛けて、タカミは月の欠片が漂う海に視線を投げた。
「考え過ぎかもしれない。僕が過敏になってるだけの事なのかもしれない。…それならそのほうがいい。あの子が折角、外界に対して積極的に示した興味に水をさしたくないし…よしんばなんらかの関連があったとしても、その女の子自身は何も知らないはずだ。ただ・・・・」
 急速に冷えてゆく口調に、マサキはふと背筋に寒いものを覚えてもう一度タカミを見た。タカミの緑眼は氷塊を湛えて、打ち寄せる波を凝視していた。
「カヲル君に・・・・いや、カヲル君だけじゃない・・・皆に害を為す者を、僕は許さない。
 連中がいまだ僕らの現在と未来を縛ろうとしているなら・・・・それを排する手段を得るためなら、僕は鬼にも悪魔にでもなる」
 その声は、決して激してはいない。ただ低く冷たかった。
 マサキが、造作に似合わぬ苦痛にも似た表情で、小さく吐息した。
「・・・・・“Yroul” the angel of Terror・・・」

***

 ―――――――数年前、ある特定の企業に侵入を繰返したハッカーがいた。
 当初は本当に侵入を繰返すだけで、データ自体に損傷を与えることは決してなかった。しかしある時期を境に一線を越える。世界中にあるその企業のグループ会社が所有するサーバへ侵入を繰り返すこと数度、ついに本社のメインにも入りこむようになった。
 だが『“Yroul” the angel of Terror』と呼ばれたそのハッカーが引き起こした最大にして最後の侵入だけが「侵入事件」と呼ばれている他は、すべてシステムの不具合として処理されている。「侵入事件」も本来不具合として処理される筈であったのが、その被害状況から揉み消しが不可能だったのだ。
 その「侵入事件」で消去された情報が、俗に「死海文書Dead-Sea Files」と呼ばれるファイル群であった。
 15年前ある都市で起きた爆発、それに関する解析結果と生存者の医学データを集積したものであった。企業は修復に躍起になったが、結局不可能であったという。
 「侵入事件」を最後に『恐怖の天使』“Yroul”はネットから忽然と姿を消した。これに前後して、生存者達に課せられた定期検診は次第に間遠になり、ついには殆ど行われなくなった。

***

 少女にとっては、何もかもがめまぐるしかった。
 何もかもが、異質だった。何度も体調を崩し、入院沙汰になったこともしばしば。無理もないことであった。入院してからの方が体調が良くなり、周囲を惑わせたりもした。
 ここの生活は向いてないのかもしれない、と少女は思った。
 広い部屋、たくさんの家具、衣服、変化に富んだ食事。学校。買い物。一度のたくさんの情報を詰め込みすぎたコンピュータのように、頭が過熱しそうであった。
 周囲の人間は優しかった。だから余計息が詰まった。
 結局、程なく別荘地へ移される事になった。そこも異質である事には違いなかったが、ともかくも静かだった。
 外に連れ出される事もなくなったが、そこでの生活に慣れるにつれ、外界への興味が出てきた。
 少しずつ、外へ出た。人に遭わない時間帯を選んで。誰とも話さずに済むように。
 人と話すのが怖かった。
 行動を指示したり、体調を訊ねたりする言葉よりほかに、かけられる言葉がある事が理解できなかった。喋れない少女に、相手は奇異な反応を示す。それがまた、少女を寡黙にさせた。
 物言わぬ自然物だけが、少女の遊び相手になった。
 森の草木、渓流の小石、河原の葦、水鳥の羽・・・・・
 潮の干満で深さを変える河、潮の匂い、砂、そして海。
 そして、朽ちかけた廃船。
 移動手段としての機能を失って久しく、風景と一体化して隠れ家のような雰囲気すら持っていた。
 少女はそこまでの道程での収集物を、廃船の一隅に隠した。
 少女は、日を置くことなくそこに通った。彼女が求めてやまなかった静穏が、そこにあったからである。

 ――――――――だが、ある日。

***

 自分と同じ紅瞳を見た。
 瞳を合わせたとたんに一歩引かれてしまった気がして、カヲルはおもわず距離をはかり損ねた。
『・・・ごめん。びっくりした?』
 それだけ言うのがやっとだった。戸惑いが抜けきらないのかしばらく両目を瞬かせていたが、少女がかぶりを振って微笑んだことに、カヲルはほっとした。
 だが、いくらも言葉をかわさないうちに、別荘の方から誰か来る気配に少女は少し慌てたように立ちあがり、砂浜から少し上がったところの森へ駆け込んでしまう。
 カヲルは、追えなかった。また、怯えさせるのが怖くて。
 ただ、その場に落ちた白い花と、その花が持つ芳香だけがカヲルの手の中に残った。
 風を纏ったようなすがしさ。そのなかの鮮烈な紅が、焼きついて離れなかった。結局その所為で午前中は何も手につかず、ミサヲに何かあったのかと訊ねられもした。だが、正体をつかめない胸苦しさをうまく説明できなくて、結局何も言えなかった。
 ―――――― 紅。
 それまで、自分の瞳の色が他人と少し違うことを知らなかったわけではない。だが、「家」ではそれを気にする者などいなかったし、身近なところでタカミの緑瞳を見ていた所為もあって、カヲルもそのことを然程気にかけたことはなかった。
 「学校」という場所へ出るに伴い、多少好奇の視線を浴びることもあったが、カヲルがあまりにも泰然としていた所為かありがちな問題は殆ど発生しなかった。尤も・・・泰然というより、他者への関心が壊滅的に抜け落ちているだけだというのが自称「第三者的視点」のマサキの意見であったが。
 そうかもしれない、とカヲルは思う。「家」の中で、カヲルの世界は完結していた。それ以上のものは必要なかった。何も持たずに生まれてきたけれど、現在は充足されていると思っていたからだ。
 多分、幸福――――なのだ。
 だから、戸惑っていた。今更何故、あの紅が胸を内側から圧迫するのだろうと。とにかく、言葉にならないことは伝えにくい。だから、言葉にならないことを、不思議に感知するタカミに話した。一切の感想を交えず、事実だけを。
 ――――タカミは、わずかだが顔色を変えた・・・・・。
 だが、すぐにそれを消して言った。
『・・・そう。また、会えるといいね』
『え・・・』
 虚をつかれ、カヲルは目を見開いた。
『だって、会いたいんだろう?』
 言われたことにも驚いたが、それが当っていることに気づいて胸を押さえたまま絶句してしまった。
『・・・・うん、会いたい・・・』
 自分の気持ちに驚いたように、またそれを確かめるように・・・・胸に当てた手を握り締めた。
 薄明の蒼く淡い空気の中で、カヲルは目を覚ました。
 部屋の中は静まり返っていた。まだ起きている者はいない。
 カヲルはベッドから降りると、手早く着替えて部屋を出た。
 ドアが閉まった音を聞いて、タカミは臥したまま静かに目を開ける。複数の感情のないまざったまなざしで閉まったドアを見つめていたが、ややあって再び目を閉じた・・・。

***

 最初は、ただ驚いた。
 誰もこない場所だと思っていたから。
 だがそれよりも、おさまろうとしない動悸にうろたえた。
 大人ばかりに囲まれて育った。だが、同年代の人間を見た事がなかったわけではない。連れていかれたやしきの息子は、おそらくは自分と同じ歳くらいであっただろう。そこへしばしば遊びにくる少女も、同じ学年だと言っていた。
 しかし彼らも、大人と同じだった。同じ目の高さで話し掛けてはくるが、少女がうまく話せないでいると黙ってしまう。そして、だんだんと距離を置いていく。そして彼女がようやく言葉を見つけた時には、石と話しているかのような冷たい感触が伝わってくるだけ、というのが常であった。
 だが、あの時は違った―――――――。
 今まで彼女の裡になかった言葉が、突如として溢れ出したような感覚。・・・何から話して良いかわからなくなったのだ。経験のない動悸と一緒になって、軽い恐怖すら覚えるほどに。
 変に思われたにちがいない。逃げ出してしまったことを、その日一日後悔した。
 それでもまた朝が近づくと、彼女にもわからない強い力に衝き動かされて、海辺の廃船へ足を向けていた。
 また、会えるかもしれないと。

***

 昨日は快晴であったが、今朝の空はやや曇りがちで・・・別荘を出ていくらも歩かないうちに浅葱あさぎ色の霧雨が降りてきた。
 まさに降りてきた、というのが相応しい、静かな訪れであった。
 夜明けの満ち潮が岩場をくすぐる音、そして潮の香り。
 カヲルの手の中には、昨日拾った白い花があった。
 柔らかい花はさすがにもう萎れかけていたし、持ってきてどうするというものでもなかった。だが、その花が持つ優しい香りはまだ残っていて、昨日の朝の光景を克明に思い起こさせる。
 それを持っていることで、もう一度会えるかもしれないなどという無邪気なことを考えていたわけでもなかったけれど・・・・・。
 天候の所為で視界は悪い。だから、音と香りは余計にカヲルの注意を惹きつけた。
 不意に、風が動く・・・・。
 風がカヲルの手の中の花を攫い、霧のかかる海へ運んだ。見失った事にかすかな失望を覚えた直後、その芳香が消えていない事に気づく。
 霧の中から、砂の上に座す廃船が姿を現した。それに軽く身を凭せ掛けるように立つ、細いシルエット。
 いくつかの言葉を用意していた筈だった。だがそれは、大事な時に口に上ってはこなかった。
 少女は、今度は逃げ出しはしなかった。ただカヲルを見て、これも数度の逡巡の後、口を開く。
「・・・・あなた、だあれ・・・・・?」

 真摯な紅瞳をうけとめ、カヲルは頭に響くような自分の鼓動を聞きながら・・・ゆっくりと息を吸った。

TO BE CONTINUED


Akino-ya Banka’s Room
Evangelion SS 「Angel’s Summer」


「夏服 最後の日 」reboot に関するAPOLOGY…..


ああっ逃げないでっ(^^;;

 はい、初期プロットとしては最初は確かにレイちゃんとカヲル君の純愛路線で書くつもりでした。だって、「夏服 最後の日」ですよ?杉山清貴さんですよ?表に出しても大家に叱られない清々しいらぶすとぉりいという奴をやってみたかったんです本当は。(じたばた)…で、こけました。

 これについてはもう弁明はいたしません。自分で書いててあまりな極甘トーンに引きつけを起こしそうでした。所詮万夏に純愛は無理です。ただ、今回の核はレイちゃん&カヲル君です。Boy meets Girlなんです。ただ、とてもそれだけでは話を進めきらないので、やっぱり年長組が出張った次第。いーんだ、所詮裏なんだ。しかも天井裏

 …そんなこんなで万夏が居直った所為かどうか、今回、タカミ君ったら無茶苦茶です(汗)一言やだっていえばいいのにコトの最中にスタンガンはないだろうスタンガンは。悪戯には悪戯で切り返したつもりなんでしょうが、つもりでしかないことは前段(Ⅰ)で露呈してます。(<結局、躱したツケを払わされてるタカミ君)

 それでは皆様、次回まで万夏が正気でいたら・・・・・いや、何も申しますまい・・・・・・(^^;

2017.7.28

暁乃家万夏 拝