その美しいひとは、奇跡のようにシンジの傍にいてくれる。
喪うことが怖くて、ずっと想いを告げられずにいた。傍にいられるだけで十分だと、自分に言い聞かせながら。
あまり身体が丈夫でなく、頻々と発熱する。その日も、ようやく熱がさがったところで…病み疲れた頬がひどく扇情的だった。
それなのに、従兄だという男性が見舞いに訪れたとき…その頬を喜色に染めて笑う。その笑みが、自分には見せたことのないものであった気がして…その夜、シンジの箍は外れてしまった。
戸惑い、怯え、苦痛に泣き叫ぶそのひとを組み敷いて、シンジは想いを遂げた。抵抗をやめないのを抑え付けるうちに首を絞めてしまったようで、そのひとは途中から意識を失っていた。抵抗が熄んだのもその所為だったのだが、気づいていなかったのだ。
我に返って…一瞬、殺してしまったのかと怯えた。だから鼓動と、唇の間から洩れる細い呼吸を確かめて…胸を撫で下ろした。
その後で、鬱血痕の残るその身体を丁寧に拭い…上掛けをかけて部屋を出た。朝までそこにいる勇気は、シンジにはなかった。
翌朝、シンジが家を出る時間には…まだ眠っていたようだった。ドアの隙間からそっと様子を窺いはしたが、声をかけることも怖ろしくて、食事とそのことを書いたメモだけを残した。
帰宅したとき、そのひとの姿はなかった。そして一晩、帰ってこなかった。
シンジは、心臓が霜で覆われるような感覚を味わった。もう帰ってくることはないのかも知れないと思うと、気が狂いそうだった。
だから、翌日ふらりと帰ってきたそのひとに取り縋って、シンジはひたすら赦しを乞うた。
そのひとは透明に微笑んで、それでも赦してくれた。
Akino-ya Banka’s Room
Evangelion SS 「Time after time Ⅱ」

Before