ルアセック ー熱ー
あの近侍衛士の面影は、いまだにこの従弟を縛っているのだろうか。あるいは、縛っているのは…過日この銀の髪の向こうに見た誰かか。
――――そうだとしたら、その呪縛が砕け散るまで抱き潰そうか。
発熱し朦朧としていたとはいえ、神殿でのことをサーティスが全く憶えていないらしいのには、ルアセックは少々落胆した。…まだ傷も癒えかけの頃のことだ。サーティス自身が忘れたがっていた可能性もあるだろう。
だが、あまりにもつれない。
濡れた長衣に包まれた痩い身体の感触も、その艶めいた息遣いも、ルアセックは鮮明に憶えている。嗚咽に絆されて一度は諦めたものの、到底忘れきれるものではない。
肩幅が広くなり、胸板が相応の厚みを得ても…いたましさに思わず触れてみた傷痕は、相変わらず敏感で…触れると佳い声を上げて薄紅に染まった身体を慄わせた。傲岸な眉目を苦痛寸前の愉悦に歪めるさまはおそろしく扇情的だった。…声が嗄れるまで啼かせたくなるほどに。
だが、紅く染まった目許…焦点が曖昧になってしまった若草色がさらに潤みを湛えているのに気付いて、一旦身体を離す。
…少し、苛めすぎたか。
だが、生憎と今更分別臭い遠慮が出来る程、ルアセックは悟ってはいない。
それにもう、俟たないと決めた。今を逃してしまえばいつまたこの腕に抱くことができるか。…自棄だろうが、気紛れだろうが構わぬ。