砂礫のアリア

 砂礫の地・イェンツォ。シェンロウのもとにアースヴェルテのリヒャルトが運び込んだのは。
 「西方奇譚」1の前日譚。どんなふうに繋がるかは読んでのお楽しみということで。
 「奇譚」の約1~2年前で、シェンロウ存命の頃のお話。残酷描写が苦手…という方はそもそもここにおいでになりますまいが、一応注意喚起をば。ま、万夏の書く話ですから…
 

「…なにもしやせん。剣は措け」
 そう言ったところで、この状況で賊と変わらぬ風体の男が近寄ってくれば警戒するなという方が無理だろう。
 半身を起こしたまま、身を硬くしている。だが、昂然と上げたおもてに怯えはなかった。
 ただ、力が入らないのか、投げ出されたままの片脚。擦れた傷だけでなく、腫れ始めていた。転落したときに傷めたのだろう。逃げるはおろか、立ち上がることも難しい筈だ。
 だから逃げなかった。逃げられないなら、身を汚しても確実に敵を仕留められる瞬間を狙った。
 ――――暗殺者の手管てくだだ。
 同業者かとも思ったが、リヒャルトはそれを即座に否定した。



登場人物(砂礫のアリア)

シェンロウアースヴェルテの「組織」で後方支援を担う人物。
昔は、ホランィ沈琅シェンロウと呼ばれていたが、現在は西方の小都市イェンツォの郊外に居を定めて医業を営む。大陸暦以前の世界の記録を託されているが、解明には至っていない。
リヒャルトアースヴェルテの「組織」で現役の中では特級の切り札とされる男。ただし素行不良。
通り名は「怪狼リヒャルトリヒャルト・デア・フェンリスウォルフ」。
サーティスリヒャルトが助けた少年。
アーニィルフトシャンツェの岩陰に棄てられていた孤児。
後継となるべくリヒャルトに預けられ、修練を積んでいる。
後のツァーリ衛兵隊第三隊長エルンスト。
コンラートアースヴェルテの長、「世界蛇コンラートコンラート・デア・ヨルムンガンド」。
戦傷により足が不自由。孫にカッツェ。
  1. 「西方奇譚」…「篝火ー」メインストーリーに登場のサーティス&エルンストの昔話その弐。サーティスとエルンストの邂逅譚。