afterlight 【名詞】

  1. 残照,夕焼け,夕映え(afterglow).
  2. 回顧,回想(retrospect).

 カヲルは、自身がソファの上で転寝うたたねしていたことに気づいた。
 部屋は夕刻の淡い光に満たされている。ローテーブルの上に読みかけの本が栞を挟んだまま置かれていた。テーブルの上に置いて、少しだけと思って目を瞑ったまでは憶えている・・・。
 開けたままの窓ぎわで、穏やかな風が時代のついたカーテンを揺らしていた。その微風が、かすかではあるがこの家では珍しい匂いを運んできて・・・カヲルは身を起こした。
 カーテンを開けて、ベランダへ出る。
 夕焼けの光が薄雲に反射して、周囲はやや赤色寄りの光が降り注ぐ。ふと方角を失いそうな不思議な感覚に襲われて空を見た。その時、またあの匂いがして視線を地上に戻す。正確には、隣室のベランダだ。
 ベランダの手摺フェンスに凭れている長身・・・そして艶のよい黒髪。
常は、その双眸の光は穏やかで色も判然としない。書庫の奥で重厚な本の頁を捲っているか、地下に並んだアクアリウムを世話している姿からはとても想像できないが、ネフィリムとしての能力を行使しなくても小隊規模の武装した兵士を沈黙させる戦闘能力を持っている。
 今は緩く羽織ったダンガリーシャツに覆われて然程とも見えないが、浅黒く灼けた頚から肩の線は精悍さが際立つ。放射線技師、臨床検査技師、そして臨床工学技士でもあり、今は住所不定でネフィリム達の拠点を整備していると聞いた・・・。
「来てたんだ、イサナ」
 カヲルは手摺フェンスを軽く跳び越えると、隣のベランダへ飛び移った。
 鯨吉ときよしイサナ。何処か遠くを見ていたようで、カヲルの声で初めてその存在に気がついたように、凭れていた手摺から身を離す。
 ・・・その仕草を、カヲルは彼にしては珍しいと思った。


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「NO APOLOGY Ⅵ」
afterlight ~夕映え~

 その休日、「夕食を一緒に」という誘いを受けて高階邸に来たのが昼過ぎのことだ。
 到着してほとんどすぐのことだ。「買い出し」と称してミスズやユカリにレイをさらわれてしまい…カヲルは手持ち無沙汰であった。
 結局、ちょっとした図書館なみの蔵書を持つ高階家の書庫で時間を過ごしてから、そこで数冊を借りて部屋へ上がっていたのだった。
「・・・そうか、お前カヲルを乗せて来てたんだったな」
 そう言って、手の中の煙草をダンガリーの胸ポケットに入れていた携帯用の灰皿に落とし込む。家主高階マサキが徹底した煙草嫌いなのでこの家には灰皿というモノがない。室内も原則禁煙。家主不在でもその不文律は堅く守られていた。
「・・・別に、僕は構わないけれど」
「非喫煙者、未成年の前でう程、常識がないと思われていたとしたら心外だな」
 生真面目といえば生真面目な科白に、カヲルは一瞬遅れて小さく笑った。
 誰かとは随分違うね、と言いかけてしまって思わず目を伏せる。マサキの煙草嫌いをカヲルに話した人物のことを思い出してしまった所為だ。
 落とした視線をそのまま窓側へ滑らせた時、口にしたのは別のことだった。
「・・・ここにいたんだ」
 少し意地悪い口調になったのは・・・あからさまな韜晦。ベランダに出ていたイサナは、ジーンズは穿いていたがシャツのボタンは一つとして留めていなかった。自室とはいえ、彼にしてはややしどけないふうであるのに気付けなかったことに、カヲルは今更ながら憮然とする。
 夕刻の微風に揺れるカーテンのむこう・・・部屋の奥まった位置に、部屋の主の長身に見合った重厚な寝台が据えられている。その乱れた敷布シーツから、見慣れた栗色の髪が覗いていた。
 寝台の端から半ば滑り落ちている腕とそれに続く肩は、華奢という印象を拭うためにはやや厚みが不足しているだろう。
 うつぶせているが間違いようがない。タカミだった。
 カヲルとレイをCX-3に乗せて来たのは当然タカミだったのだが、こちらはリエに捕まって連れて行かれた筈だった。何でも、リエがイロウルの挙動でなにやら迷惑を被ったのでお叱言こごとがあったらしい。
「『女教皇ハイ・プリーステス』の説教は終わってたみたいだね。だいぶへこんでた?」
 今更動じるようなことでもないのだが、去年の夏といい、間が悪いにも程がある。前回はお互いに不慮の事故・・・・・だったのだが、ここはイサナの私室だ。今回は何も思わずに手摺を乗り越えたカヲルの咎だろう。
 毒喰らわば皿というわけでもないが、カヲルは開いたままのテラス窓から部屋へ入った。それでも身を起こす様子がないのは、部屋に敷かれた毛脚の長い絨毯が足音を吸ってしまうからだけではないだろう。
 完全に正体を失っている。
「リエの説教ぐらいでへこむ奴でもないだろう・・・何かあったのか? こいつ、何かおかしいぞ」
ベランダの手摺に凭れたまま、イサナが背中越しに至って泰然と問うた。
その「様子がおかしい」タカミを意識が飛ぶまで丁寧に抱き潰しておいて、いけしゃあしゃあとしたものだ。
 タカミもおそらく抗いはしなかったのだろう。そもそも膂力に差がありすぎるのだから本気で抵抗したところでどうにもなるまいが、昨夏のように一服盛るような真似をしなかったとしても、タカミの性格からして求められれば拒否しないだろうことは容易に想像できた。
 ―――――だが、それにつけ込んだことのあるカヲルに言えた義理ではない。
 カヲルの沈黙をどうとったか、イサナが小さく吐息して言った。
「・・・どのみち問い詰めても口は割らんだろ」
「だからって・・」
 口を割らせるつもりで抱き潰したんだろう、と言いかけて、さすがに口を噤む。
 そしてただ、目覚める様子のないタカミの傍らに腰掛けて、少し癖のある栗色の髪を撫でた。呼吸は緩やかになってはいるが、まだすこし汗ばんだ肌がなまめかしい。
「・・・リツコさんが学会とかで何日か不在ってだけ。京都だったかな。まだ3日目なんだけどね。明日には帰ってくるし」
 それを聞いたイサナは呆れたように、嘆息と共に呟く。
子供ガキじゃあるまいし・・・そんなに心配なら、ついていけばいいだろうに」
「いや、そういうんじゃなくて・・・」
 カヲルが眉を顰める。根本的に間違っているとは言わないが、理解の仕方が微妙にずれている。イサナは感応系能力者ではあるが、その方向性は至って物理的フィジカルな側面に特化されている。その所為か。もしくはわざとか。
「時々・・・不安になるんだってさ。覚悟してるつもりでも、やっぱりね。
 前に不在があったときは、前半を何だったかそれほど急ぎでもないシミュレーションをほとんど不眠不休で組んで、稼働させる一日半ほど倒れてたっけ。リツコさんが帰ってきた途端に、面白いくらい何もなかったみたいにしてたな。
 離れてると…ふっと捉まっちゃうみたいだ。頭と身体を酷使してるほうが気が紛れるんだってさ」
 栗色の髪に指を絡めながら、カヲルは早春の一件を思い出していた。
『覚悟は、できてる?』
『…うん、多分ね』
 逢いたいひとに逢えた。そして、傍にいることができる。それが、限られた時間と解っていても。その幸福感を憚りなく言葉や態度に出せるタカミが、カヲルにとっては羨ましい。時に当てられてしまうほどに。
 自分は自分の大切な存在に、これほどストレートに伝えられているのだろうか・・・?
「・・・余程、赤木博士に『頼むから次から連れて行ってやって』って言おうと思ったけどね。見てるほうが鬱陶しいから」
「“鬱陶しい”・・・か」
 イサナがわらう。
「見ていられない、の間違いだろう」
「・・・言えた義理?」
 精々切り口上に言ったつもりだったが、イサナは動じない。凄味のあるつやとしか表現しようのないものを薄い唇に閃かせて言い放つ。
「俺は構わん。それでこいつの防御ガードが甘くなるなら好都合だ」

 もはや何も言えなくなって、カヲルが口を噤む。立ち上がって、部屋の一隅・・・甲板を降ろしたままのこれも重厚な書き物机ライティングビューローへ寄せられた椅子へ座を移した。机の上には読みかけの本ハードカバーが広げられ、夕刻の微風に頁ページを捲られるままになっていた。栞は挟まれることもなくやはり風に煽られて絨毯の上に落ちている。それを拾い上げて、カヲルは本を閉じた。
 その動作は、言葉をまとめるための空隙。別に場所を譲る意図はなかったが、イサナは当然のようにベッドに戻って座を占める。
「夏のことって・・・サキの指示だからじゃなかったんだ」
「指示・・・?」
 一瞬、イサナが怪訝そうな表情をする。だが、先程と同じ笑みを閃かせて言った。
「確かに・・・指示と許可は同義じゃないだろうな」
 カヲルが鼻白むのを、イサナはどう見ても愉しんでいた。そうして、半ば俯せていたタカミをさらりと片手で仰向かせる。
「イサナ・・・!」
 上げかけた声を、カヲルは飲み込んだ。さすがに、この状況でタカミが目を覚ましてしまったら面倒この上ない。
 だが、タカミは喉奥で微かな声を上げた他、目覚めそうな兆候はなかった。それをよいことに、イサナが指先でゆっくりと荒れた呼吸でかさついてしまった唇を撫でる。細く微かな苦鳴にも似た声があがり、カヲルは揺り起こされた熱に思わず一瞬だけ呼吸を停めた。
「・・・ただ、一度だけだ」
「何が」
「サキのことだ。それも、本意じゃなかった。…サキにとっては騙し討ちに近かった」
 一瞬繋がらず、カヲルは褥に視線を落としたままのイサナを凝視みつめる。光を弱めつつある夕映えを背にしていると、その横顔は薄闇に沈み・・・常は判然としない深い紫瞳がはっきりとわかる。
「これが理由だ」
 敷布を捲る。タカミの胸骨直上には、拳ほどの瘢痕があった。正確には瘢痕ではない。鳥の髑髏を思わせる形に浮かび上がる角質化した皮膚は、周囲とは明らかな境界を成している。本来ならば彼等すべてに備わった筈の、時間と空間を越えた認識を可能とする器官。
 その名称として未だに妥当なものがなく、彼等は「仮面」と呼びならわす。
 これを持つのはネフィリム達の中でも二人。一人は高階マサキ。もう一人がタカミだった。高階マサキがその機能のほぼ完璧なコントロールを体得したのに比べ、当時アベルと呼ばれていたタカミは制御に失敗して能力を暴走させた。ずれた時間軸の悲惨な未来に飲み込まれ、心を壊してしまったのである。
 マサキにこれを与えたのはヨハン=シュミット。カヲルになる前の、アダムの現身うつしみ。ネフィリム達と行動を共にすることが叶わないと判断した彼は、姿を消す直前に当時はサッシャと呼ばれていたマサキにやや強引な方法で発現させた。
 本来遺伝子には刻み込まれているのだから、その発現を誘導しただけといえばそうなのだが。
 だが、アベルはサッシャからこれを写し取って・・・・・しまったという。おそらくは、自身の同調能力の応用だ。直接接触してその本質を解析し、同じ変化を自分の身体に起こす。その変化はある程度の時間経過を必要としただろうが、根本的にはヨハン=シュミットと丁度真逆のことをしたわけだ。
 直接接触するためにどういう手段をとったのか。カヲルはイサナの言わんとするところを理解した。
「『観測』は結構なエネルギーを消費するらしい。俺によくわからんがな。アベルは、サキの負担を減らそうと思ったんだ。…そんなことができるのはこいつくらいだった。俺は反対しなかった。共犯といえば共犯だろうな。
 結果としては、こいつはコントロールに失敗して…却って手間を増やしたんだが。
 サキは、最初から俺達に負い目を持ってるふうではあった。・・・あいつはそもそも自分が生き延びたりしなければ、あの研究所でネフィリムの実験など行われることはなかっただろう、とか何とか思ってるんだ。俺達に言わせればそこは微妙に間違ってるんだが・・・その所為か、すべて背負い込もうとする。
 こいつが『仮面』を発現させてしまった時、一番苦しんだのはサキだった。自分が絆ほだされたばっかりにアベルにも重荷を背負わせたと思っているんだ。爾来、サキは極力こいつに触れようとしない。それはそれでこいつがおさまらないから、話はややこしくなったんだ」
 語る言葉は淡々としていたが、その指先はタカミの唇から顎の線を柔らかく滑り、首筋へ落ちる。タカミが目を開けることはなかったが、微かに眉を寄せ・・・刹那、呼吸を詰めたのがわかった。
「こいつは自分のしたことが、サキを怒らせたと思ってしまったんだろうな。『仮面』発現に伴う熱の所為もあったのかも知れんが、徐々におかしく・・・・なっていった。それがまた、コントロールを失わせる一因になっていたんだろうが、今となってはただの後知恵だ。その時はどうしようもなかった。
 正直なところ・・・どっちが先だったのかわからん。サキに突き放されたと思った絶望がコントロールを狂わせたのか、もともとコントロールがよくなかったのか。だが結果として、こいつは食べも眠りもしなくなって・・・衰弱していった。体力が落ちれば当然能力も制御できなくなる。悪循環だ。それを停めるには、眠らせるしかなかった。ただ、沈静作用のある薬物は代謝が早すぎる上に過用していい訳はない。コストも莫迦にならん。感応系能力で強制的にシャットダウンするのが一番効率がよかったのさ。
 能力の制御に長けたサキが最適だったんだが、回数を重ねればサキにとっても結構な負担にはなっていた。能力的な話じゃなくて、だ。
 自分に『仮面』が発現したときのことは憶えてるんだから、ただ一度肌をあわせたくらいで発現させてしまうなんてことはあり得ないって理解ってるだろうにな。俺が証明・・してみせた後もだいぶ長いことぐだぐだやっていた。結構頑固だからな、あれで」
 淡々と、しかもとんでもないことを平然と言い放つ。
「『証明』って・・・」
「俺には発現しなかった。つまりは、そういうことだ」
 実験結果を報告レポートする科学者のように、その言葉には一片の感慨もない。ただ、その指先は優しく肌の上を滑り続け・・・意識のないままの身体に新たな熱を揺り起こしていた。
「こいつアベルがこの姿タカミになってからは、ようやく少し吹っ切れたらしいがな。俺なら引き摺られることもない。一番、手っ取り早かったと言う話さ。・・・尤も・・・」
 イサナがさらに指先を進める。喉奥から微かな声が漏れて、タカミが身体を震わせた。
「・・・義務感でそうしてたとは言わんよ」
 イサナが笑う。しかしカヲルが声にできたのは・・・いたましさすら含んだ言葉。
「もう、アベルじゃないんだよ?」
「そうだな・・・その通りだ。それは知っている。“破滅を回避できたら、またもう一度出会えばいい”。こいつにそう嗾けしかけたのは、他じゃない・・・この俺なんだからな」
 聞いたことがある。それは、ジオフロント突入直後のことであったと。リツコに何も言えないままに出てきてしまったことに鬱屈するタカミに、イサナがそう言ってくれたと…以前カヲルに話したのはタカミ自身だった。
 それを話しているときのタカミの表情に滲んでいたのは、彼がマサキに対して示すのとほぼ同等な…全幅の信頼。
「・・・だったら・・・」
「ただ守られるだけの立場でなく、大切な何かを守ろうとすればひとは強くなれる。それは別に悪いコトじゃあるまい。ただ・・・」
 そこまで言いさした時、微かに震えてまだ十分な力の入らない手に、シャツの裾を哀訴するように掴まれ…イサナは一度言葉を切る。喉奥から漏れるか細い声を傾聴するような間があった。その願いに添うものなのかどうか…明らかに呼吸を乱しつつある唇を唇で塞ぐ。
 ひくり、と繊い肩が痙攣した。
 シャツを掴む指先が再び力を失って滑り落ちるまでの数秒・・・カヲルは静かにそれを見ていた。
 ややあってイサナは身を離し、淡紅色に染まって小刻みに上下する胸の上に静かに手を置いて言った。

「ただ、この奥に誰がいたとしても・・・今、ここにいる間は俺のものだ」

***

 日は暮れ、階下の喧噪が聞こえてくる。グラスや皿が触れあう音も聞こえてくるから、そろそろテーブルセッティングが始まっているのだろう。
 手伝いに行くべきかな、とは思ったが、カヲルはなんとなくそのまま手にした本の頁を進めていた。
 タカミが部屋に戻ってきたのは30分ほど前だった。無論服は整えていたが、戻ってくるなり気怠そうにベッドに身を預けてしまう。だが、眠った訳ではなさそうだった。
「…呆れてる?」
 長い沈黙のあとのそれはただの呟きではなく、明らかな問いかけであったから…カヲルはわずかな逡巡の後に顔を上げずに応えた。
「どうして?」
 カヲルの反問に、タカミは暫時間を置いた。
「…誰でもいいんだって…思われたかなって」
 自嘲の色濃い、やや弱々しい声音に、カヲルが顔を上げる。ベッドサイドランプだけの朧気な光の中で、翠色がすこし哀しげな色彩を湛えて天井を凝視みつめていた。
 やはり、途中からなかば覚めていたのか。
「隙だらけなのは、確かだよね」
 視線をまた落とし、上滑りしてしまった頁を戻しながらカヲルが応える。こんなこと、自分に言えた義理じゃない。そんな想いが、言葉から感情を削り取っていた。
 いや、少し違う。誰に対しても「隙だらけ」なわけではない。自分カヲルだったから。イサナだったから。
 自分はかつてそこにつけ込んだ。その自覚はある。
『言ったよね。君たちが大好きだから、出来ることは何でもするよって』
『それとこれとは話が別だろう。イヤだったらイヤって言えばいいのに』
 度し難い程のお人好し?違うだろう。甘えて踏み込んだのはカヲルの方なのだ。守りたいものがある。でも、どうしていいのかわからなくて…そんな漠とした不安を、タカミはちゃんと理解していた。理解していたから、自身タカミに差し出せるものを差し出しただけ。
 タカミが度外れたお人好しであることには違いないが、度し難いのはカヲルの方だった。
 でも、多分…イサナは違うのだ。
 そして、タカミもまたそれを理解っている。…理解っているから、苦しいのだ。
 夕映えの淡い光のなかの情景。与えられる刺激に甘い声を上げても、それには苦しさが纏い付いていた。

『この奥に誰がいたとしても・・・今、ここにいる間は俺のものだ』

 余韻に震える胸の上にそっと手を当てたまま…ひどく無機的な響きを貫きながら、深い熱を持った言葉。…あの時に聞こえていなかったとしても、タカミに伝わって・・・・いない訳はない。そしてそれが、苦しめる意図を持ってのことではないと…一番よく理解っているのもタカミだろう。
「僕はね…」
 タカミが片手で軽く目を覆って、軽く息を吸い込む。
「言わなくていいよ…」
 頁を捲って、カヲルは静かに言った。
「今は何も言わなくていいよ。苦しくなるだけだろう」
 言ってしまってから、カヲルは自身のずるさ加減に嫌気がさした。苦しくなるのはきっとタカミではなく、カヲルなのだ。だから聞きたくない。

 思い出してしまうから。優しくも、温かくもなかったのに、何度となくこの身を委ねた腕を。もう二度とないと理解っていても。

「…そうだね、その通りだ…」
 階下から、軽捷な足音が上がってくるのが聞こえてきたのもあるだろう。吸い込んだ息を、そのまま緩く吐き出して…タカミがそう言った。

―――了―――

Akino-ya Banka’s Room
Evangelion SS 「NO APOLOGY Ⅵ」

「afterlight」に関するAPOLOGY…..

ヤマなし、落ちなし、意味なし…あわわ

 「裏なら裏らしく裏書きましょう」シリーズ続編♪ …って莫迦?
またぞろ大家に絞め殺されそうなものを書いてしまいました。大家が「イサナのビジュアルは小田切さん」などと煽るよーなこと言うから…つい発作的に。時間的には「always and forever」の2、3ヶ月後というところでしょうか。リツコさんに想いを伝えることができて幸せいっぱいの筈なのに、ふと油断して食い散らかされるタカミくんがお気の毒という話。(<なんちゅう要約の仕方だ…)

前にも増してイサナの性格が困ったことになっていきました。さらっとコワい過去話は暴露するし(証明って…をい!)、カヲル君が見てる前でタカミくん食っちまうし。そうそう、喫煙者という設定は某黒豹さんから滑ってきたに違いないのですが、携帯灰皿なんてえらく始末なものをポッケにいれてるのはイサナのイサナたる所以ですね。根は真面目なんですよきっと。だからコワいって話もあるのか(汗)

そして、煙草の匂いになんとなーく加持さんを思い出しちゃって不機嫌なカヲル君は、微妙に八つ当たり気味。しかし当たられても、それ自体はあんまりこたえないタカミくんなのでした。本当に底抜け…(笑)

しかしこの話で行くと、アベルだった頃のタカミくんは結構いい性格だったことになりますね(<書いといて何を言う)。サキ、ご愁傷サマ。欧州にいたころの彼等のお話も書けば書きしろありそうで思わず不気味な笑いをしてしまいます。まぁったくエヴァ関係なくなってますが、既に頓着してません。うふふ。

afterlight…は、池田さんの曲です。「アフターライト~夕映え~」はかの「月の舟」のc/w曲で、何故かアルバム未収録。もはや入手不可能ではないかと思われます。(俄に聴きたくなって家中探したのですが見つからずじまい…あったんですよ、8㎝シングルCD!)実はうろ覚えなのですが、こんな綺麗な夕映えを一緒に見ている二人が何故離れていくんだろう、といった切ない歌詞でした。…全く重なりませんね。はっはっは。でも、響きがよくって思わず今回のタイトルに使わせて頂きました。ま、afterlightという単語の意味に照らしたら、今回もっぱら過去話なのでご容赦…ということで。

それでは皆様、次回まで万夏が正気でいたら・・・・・いや、何も申しますまい・・・・・・(^^;

2018.6.9

暁乃家 万夏 拝