度し難いことにはタカミは拒みはしない。しかし求めることもない。
 曖昧な微笑ですべてを受容れようとする。自身をさいなむためにそうしているのではないかと疑うほどに。
 だとしたら、やっぱり悪いのは…踏み止まれない自分なのだろう。


Akino-ya Banka’s Room Evangelion SS 
「Angel’s Summer」
夏服 最後の日 Ⅳ

 外呑みはやめとけ。お前、酒が入ると諸々もろもろあぶないから。
 呑みたきゃとことん付き合ってやるから、酒持ってうちに来い。
 …そう言ったのは間違いなく自分だ。それは憶えているし、撤回した訳でもない。
 イヤなわけではない。…でも、流石にこれは困る。
 昼過ぎに入ったメールの通り、帰宅してみると冷蔵庫には数種類のボトルが冷えていた。昼から休暇でも貰ったのか、簡単ではあるが夕食の支度までととのっていたのでは、叱言もしにくい。
 タカミが呑みたがる時は、自分自身で処理しきれない何かがあったときだ。付き合うのは構わない。しかし、困ったことにはその何かを言わない。言わずにひたすら呑む。不健康極まる。
 …挙句、潰れる。当然の帰結だ。悪い酒としか言いようがない。…だからこそ、外で呑むなと言った。一時は、落ち着いていたのだが。
 例によってダイニングで潰れかかったタカミを寝室へ放り込んでから、後片付けのためにキッチンへ足を向ける。…向けるつもりだった。
 存外に強い力で引き留められ、マサキとて完全に素面しらふでもなかったから…軽く均衡バランスを崩す。寝台ベッドに腰掛けるかたちになり、加害者に文句の一つも言おうとして…思わず呼吸を停める。
 タカミの指先が関節が白くなるほどマサキのシャツの裾を掴んでいた。酒精アルコールのもたらす熱で潤んだ孔雀石の翠マラカイトグリーン
 マサキは停めた呼吸を嘆息にして吐いてしまうと、朱を刷いた頬に手を伸ばした。
「…こんなになるまで呑んで…それでもまだ言えないってか。…大概にしろ」
 酒の余勢を駆っている唇は、あの時のようにかさついてもいなければ酷い色もしていない。…しかし、それが却って悪い。騙されそうになる。
 顎を捉え、指先でかすかに震えている唇をするりと撫でる。その刺激に対する反応は、足にきているようでいて、意識はある程度保っているのを露呈していた。
 お前、気の遣い方の方向性を誤ってるぞ…そう言ってやりたかった。だが、そう言う代わりに、指先でこじ開けた唇を唇で塞ぐ。
 舌を絡める。タカミが息を詰まらせたのは判っていたが、敢えて斟酌しなかった。
 長すぎる呼吸の中断に耐えきれなくなるタイミング。触れている全てからそれが判るから、少し前で離れる。
 タカミが流れ込んだ空気に咽せ、喘いでいる間に服を緩める。…窒息しかかった所為かまなじりにわずかながら涙さえ溜めていたが、度し難いことには抗わない。
 だから、露わになった首筋に口づけてそのまま印をつける。かすかに上がった声は苦鳴との危うい境界線上にあった。しかし印を二つ、三つと数を増やすごとに、振幅を変えながら嬌声へと傾いてゆく。
 今や堰かれた息でなく、明らかに身の内から噴きあげる熱がタカミの呼吸を乱していた。マサキの背に回りかけた指先が、縋りつくような動きを見せては滑り落ちる。熱に浮かされながら時折漏れる息。緊張と弛緩を繰り返しながら、それでも縋ることがない。
 ――――マサキにしてみれば、それがやりきれない。
 自身を苛むための行為なら、片棒を担ぐのは御免だった。それなのに、縋りかけては諦める腕が歯痒くて、つい熱くなる。結果はいつも同じだ。縋らせたくて、縋って欲しくて…壊す寸前まで追い詰めても、熱をはらんだ苦鳴の下から掠れた声で囁くだけ。
「…ごめん、サキ…」

***

 あの頃に比べれば多少厚みがついたにしても、やはりほそい肩。薄明の青みを帯びた空気の中で、緩く上下するそれを暫く眺め遣ってから…マサキはベッドの脇に落としたシャツを拾い上げて立ち上がる。緩慢に腕を通しながら、灯をつけないままにキッチンへ入った。
 冷蔵庫の中から、ペットボトルのミネラルウォーターを出して半分ほどグラスにあける。いつも頭に突き刺さるような温度で冷やしているのが常だが、今はそれが殊の外心地好かった。酔いの残った頭には尚更。
 また、タカミの悪い癖が出た。頭の中がオーバーフロー気味のくせに、助けを求めようとしない。突然、ふらりと転がり込んで…おそろしく隙だらけ。それでも悪いのは俺かよ、と誰にともなく悪態をつきたくなる。そうしないのは、悪態をつく相手がいないからに過ぎない。
 判ってるなら自制なさい、というわかりきった答えがミサヲの声で聞こえるのは、バレる要素が何もないはずなのにミサヲには筒抜けるという不思議な現象がよく起こるからだ。こればかりはいまでも不思議で仕方ない。しかし、聞こえるのが頭の中だけであるのはまだ幸いだ。面と向かって言われるときには、大抵物理的な制裁を伴うのだから。
 …自制か。言うほど楽じゃないぞ。
 グラスをシンクに置いて、暗いままのリビングの窓へ…外に影の落ちない位置を選んで身を寄せる。
 夜明けの薄青い風景の中、昨夜から位置の変わっていない車を見つける。昨夜からこの部屋をうかがっていたようではあったが、昨夜は確信が持てなかった。
 あれか。
 一旦窓から後退さがり、キャビネットからフレキシブル型のカメラプローブを出してタブレットに接続する。そのままキャビネットの脇に座り込むと、カーテンの隙間からプローブだけ出してその方向を確認する。車はまだそこにいた。
 昨夜はよく顔まで判らなかったが、おそらく同一人物。交代要員もいないなら、それほど組織だった行動とは考えにくい。油断しているのか、ドアウィンドウからあまり距離を取っていない。
 どうしようもない素人か。さもなければこちらを油断させるための罠か。
「…罠だとしても、手がかりには違いないな」
 車と、車の窓に映る男の横顔を数枚撮って、プローブを引っ込める。画像を確認してから立ち上がり、今度はキャビネットの上に置いていた携帯電話に手を伸ばした。
 メールならともかく、常識的に電話をかけるような時間ではない。だが、数回のコール音のあと、やや機嫌の悪い声が応いらえた。
「…ああリエ? 興が乗ってるとこ悪いが、調べて欲しいことが…え?もう寝る? お前にしてはやけに早仕舞いじゃないか。さては締め切りが近いだろう。大きなお世話? …ごもっとも。まあ、ちょっと急ぐんでそこを枉げて聞いてくれると嬉しいんだが。
 …今送った。この男の身元が知りたい。車のナンバーも映ってると思うが。…そう、4枚目。些か光量がきびしいが、お前なら・・・・なんとでも補正出来るだろう? …ああ、急ぐ。何せ、ここ暫くタカミをつけ回してた奴らしいから…まあ待て、いきなり事を荒立てるな。俺だってタカミがキレる前に事を納めたいのはやまやまだが、実はただのブラフで本命が別に動いてる可能性だってゼロじゃない。俺みたいな素人に、顔どころかナンバープレートまであっさり撮られるような間抜けがプロってのは考えにくいだろ? ああ、結果が出たらメールよろしく」
 テンポの速い通話が切れる。マサキは携帯をキャビネットの上に戻し、改めてタブレットに収められた監視者の写真を呼び出す。
「何処の誰だか知らんが、あんたの御陰で俺はスタンガンまで押し付けられる羽目になったんだ。相応の返礼は受けてもらうよ」
「…まだ根に持ってたんですか、サキ」
 マサキが顔を上げる。シャツだけ羽織ったタカミが、スクリーンの向こうから姿を現した。リビングと寝室の境は、観葉植物と白いスクリーンがあるだけだ。声は丸聞こえだったに違いない。
 マサキは苦笑してタブレットをクレイドルに戻した。正確に言えば根に持っているのはスタンガンの一件ではない。強硬に躱したかと思えば昨夜のように何も言わずに寄りかかってくるような…支離滅裂な扱いづらさに、マサキは些か茹だり気味なのだ。
 早急にもとのタカミに戻って欲しい。有り体に言えば、キレそうなのはマサキの方だった。
「どこから聞いてた?」
「『いきなり事を荒立てるな』あたりからですかね。…心配しなくたって、そんなに簡単にキレたりしませんよ、僕は」
「前科者が偉そうに言うな。…実直に、つけ回されてるのがお前だけとは限らんだろうが。お前が考えてる通りの相手なら、Angelの刻印を受けた者皆が標的になってて然るべきなんだ。忘れてるかも知れんが、大体ここは俺のアパートだぞ」
 タカミが絶句する。
「…まあ、今朝についてはお前がつけられたってのが一番妥当だがな。手がかりは一つ手に入ったんだ。何、リエなら今日中には何か持ってくるさ。とりあえずお前、送ってやるから仕事へ行け。…俺だって今日は普通に勤務なんだ」

***

 医療現場は、程度に差はあろうがなべて紛うことなきブラック職場である。
 確かにシフトがキツいというのもあるが、ある意味専門家、職人の集まりだから「自分の仕事」に対する執着がおそろしく強い。血反吐を吐きながらでも自分の仕事だけはやって帰る、という行動パターンが比喩にならないあたりが既に度し難いのだが、就職して十年近く経てば、マサキも多少その気風に感染せざるを得ない。
 それでも俺が悪いのか。
 頭痛を手持ちの薬で誤魔化しながら、マサキは午後から早退する算段をしていた。この状態はよくない。I’m not SAFEだ。インシデントどころかアクシデントになりかねない。休むべきだ。そんな具合に自分を納得させて、多少無茶なやりくりで午後からの年休を確保して一息ついたとき、それは降ってきた。
「…高階君、午後から年休って?具合悪いの?」
 最後の検査結果を送信し終えて、ふっと気が緩みかけたまさにその瞬間であった。凜とした声に思わず背筋が伸びる。
「…赤木医師せんせい…今日、出勤でしたっけ?」
 今一番出会いたくない人物ではあった。週二度、病理検査の嘱託で入っている…赤木リツコ医師。今年の春からのことで、実はまだタカミにも言えていない。
 だが、彼女の方でも知らない筈だ。部下にあたる臨床検査技師「高階マサキ」が、Angel-03の刻印を持つ者であることを。
「今日は勤務じゃないわ。論文の件で手続きを急かされたから寄っただけ。大丈夫なの?」
「…少し頭痛がするのでね。インシデントレポート書く羽目になる前に年休消化しとこうかと」
「そう、それはいけないわね…。何なら鎮痛剤処方するけど?」
「有り難うございます。でも、手持ちがありますから。ま、ただの寝不足ですよ。帰って寝ます」
「そう、お大事にね。…そういえば、忘れ物を預けていいかしら?」
「…は?」
「…多分、彼のだと思うの。次に逢うのは月末になりそうだし、捜してるなら早めに教えてあげたほうがいいと思って」
 差し出されたのは、院内事務で使われる、味も素っ気も無い使用済み封筒。宛先が消されて半分に切り詰められている。それ自体は、決して珍しいものでもなんでもないが…
 軽く折っただけの封をあけると、しゃらりと涼やかな音がして…中からシルバーのチェーンブレスレットが滑り出た。やはりシルバーの細いプレートがあるほか、文様も石も入っていない、シンプルなデザイン。だが、他でもないその細いプレートに入った小さな切痕きずに見覚えがあった。かすかに緑青の残った切痕。プレート表面はきれいに拭われているが、不整な切痕に入り込んだ緑青ろくしょうはその色彩を残していた。
「俺に預けるって…誰のです」
 迂闊に見覚えがあるなどと口走る訳にはいかない。しかしネームが入っているわけでもないのに持ってきたということは、彼女にもある程度の確信があるはず。
「…榊君のでしょ」
 心拍が一気に上昇する。
「身内同然って聞いてるわ」
 …ということは、タカミ自身が喋ったか。ならば、トボけるのは不味まずい。しかし何処で落とした。何処で拾われた?それによっては、えらいことになる。
「タカミですか。こんなの持ってたかな。…っていうか、あれタカミをご存知で?」
 ここはシラを切っていい。
「…ええ。メールしたんだけど…どういう訳か、返信が無くて」
 少し困ったような、微笑。表情に出ないように苦慮しつつ、マサキは苦虫を噛み潰す。…あの、莫迦!
「…さて…とりあえず、訊いてみますよ」
 マサキは注意深くそう言って…それブレスレットを預かった。

***

 頭痛の種は増えるばかりだというのに、辛くも取得した半日ばかりの休暇でどの程度の休養が取れるものか。これ以上のドーピングはしたくないもんだが、と思いながらマサキが職員用の通用口へ足を向けたとき…それ・・は居た。
 中学校の制服姿の少年が、銀色の頭の後ろで両手を組んで廊下の壁に凭れかかっている。
「…何でお前がここに居る?」
「夏休み。職場体験。現地解散。…送ってくれる?」
 マサキの姿を認めてひょいと壁から身を離し…無邪気な微笑と共に僅かに首を傾げてみせる仕草は、大概の大人なら無条件で諾と言ってしまうだろう。自身の容姿を熟知した、凶悪なまでの人誑ひとたら技能スキルには、ある意味感心する。しかし本性が判っているマサキは…盛大に苦虫を噛み潰したのだった。
「…主語と助詞と『お願いします』の一言を入れろよ、この似非エセ優等生」
「努力するよ」
 カヲルの誠意のない返答に果てしない脱力感を覚えながら、マサキは生意気な末弟の背をはたいた。
「来い。…そういえば職場体験そんなはなしもあったな。…どうでもいいが、何でお前が病院だ?」
 やれやれ、回り道決定だ。車のキーを手の中で弄びながら、マサキが半分ぼやくように言った。カヲルが悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「タカミんとこは研究開発法人でしょ。見学ルートなんて設定されてないよ。ユウキとナオキんとこはこないだ公開日に行ってきたし…選択肢なくて」
「仕方ないから来てやったみたいに言うな、罰あたりめ。中坊の見学ごときに俺達スタッフがどれだけ時間割いてるか理解ってるか?」
「どのみち臨床検査科サキんとこは見学ルートから外れてるじゃない。ミサヲ姉は丁寧に説明してくれたよ? 結構面白かった」
「あれは天然デフォルトだ。おまけに、仕事と割り切ってる。ついでに言えば看護部は見学ルートがきちんとマニュアル化されてる」
「そーなんだ」
 晴天の駐車場は、アスファルトが灼けていた。車のロックを解除してから、マサキはやや声を低めた。
「…で?本当の目的は」
「…赤木博士の顔を見てみたくて」
 秀麗な美貌は相変わらず薄い笑みを浮かべているが、紅瞳が微妙に笑っていない。マサキは運転席側のドアを開けた。
「とりあえず乗れ。…情報仕入元ニュースソースは…例のお嬢ちゃんか。何処まで知ってる?」
「何処までって…普通に、レイの保護者代わりってことだけ。お母さんは亡くなったって聞いた」
「亡くなった…?」
 Angel-02かもしれないあの少女。仮にそうだとして、彼女は自分の出自をどの程度知っているのだろう。真実を知らされているとは限らない。多分、それを慮ったから…カヲルも彼女に聞くよりも「保護者代わり」に聞いてみようと考えたのか。
 一見無邪気なほどの正攻法だが…訊くのが他でもないカヲルなら?…一考に値する。
 レイという名のあの少女がAngel-02であったとして、ひとり隔離されていた理由は何か。ナギサと同じように重症度がかけ離れて高く、通常の生活が望めなかったという可能性がひとつ。もう一つは、あの少女が生存を隠匿される理由を持っていた、という可能性…。
 ドアを閉めて、シートベルトを締める。作動をはじめたばかりのエアコン程度では駆逐出来ない熱気を逃がそうとウィンドウを下げかけ…気づいた。
「カヲル、降りろ!」
 シートベルトの解除ボタンを押すが早いかマサキがドアを大きく開け放つ。一瞬遅く、カヲルが助手席でくたりとシートに沈んだ。舌打ちして、助手席側に回り込むとドアを全開にし、カヲルを引きずり出す。
「…っ痛!」
 引きずり出された勢いでアスファルトの上でしりもちをついた上に側頭部をぶつけたカヲルが、流石に目を開ける。側頭部を撫でながら起き上がり、少し咳き込んでから唸るように言った。
「…なに、この匂い…サキ、芳香剤の趣味悪い」
「莫迦、んな訳あるか! 何か仕込まれたんだ」
 カヲルに悪態をつく余裕があると見たマサキは、運転席側へ戻ってドア周囲を調べた。一応警報装置イモビライザーもついている。作動しなかったのなら、仕掛けは単純な筈。
 …あった。液体の入った小さな袋と、丈夫な糸で作った簡単なものだ。ドアを開けたら車の内側へ引込まれ、ドアを閉めれば袋は潰れて内部の液体を車内に零す。臭気からして、常温液体で、揮発しやすい麻酔剤。
 気づかずに車を発進させていたら…。
 背筋を冷汗が滑り落ちた。完璧な謀殺だ。疑ってかからなければ、ただの居眠り運転の自爆事故。
「カヲル、吐き気とか頭痛はあるか!?」
「わかんないけど気持ち悪い…」
「…わかった、そのまま動くな。座ってろ」
 仕掛けの位置からして、マサキ自身が一番高い濃度で吸っている。体調不良も手伝って気分は最悪だったが、車に寄りかかったままサマージャケットの内ポケットから携帯電話を引っ張り出すと、病院の代表番号でコールした。この時間なら、携帯はロッカールームだろう。掛けても意味が無い。
 程なく、交換台の職員が出た。
「すみません、検査の高階です。外来を…外来の高階ミサヲをお願いします。ええ、主任の。至急と伝えてください」
 保留の軽妙なメロディが、ひどく眠気を誘ってマサキを苛立たせる。腕が重い。携帯を耳にあてておくのも億劫な気がしてきた。意識を保つために何らかの物理的手段が必要かと思い始めた時、ミサヲの慌てた声が鼓膜を撃つ。
「…ミサヲ、殺されかけた。俺は大丈夫だが、カヲルの奴が巻き添えをくった。診てやってくれ。…駐車場だ。俺の車。頼む…」
 マサキの手から、携帯電話が滑り落ちた。

***

 すべてが寝静まるという時間ではないが、その街区はオフィス街から程近く、単身者用のマンションが多い所為か、比較的静けさを保っていた。
 淡い月明かりが、その静謐を押し包む。
 その中でも、単身者用としてはやや広い造りのマンションだ。セキュリティとしては中程度。ガチガチに固めているという印象はないが、かといって誰でもはいりこめるようなおおらかさはない。
 その部屋の前に立って、周囲を確認する。鍵はオートロックだが、簡易なものだからちょっとした裏技で解錠は可能だ。あまり時間を掛けずに玄関へ滑りこむ。
 住人はまだ帰宅していない。暗く静かな中で、冷蔵庫か何かの低い唸りがするだけだ。
 指向性の高いペンライトで低い位置から床を照らす。玄関を入るとホールになっており、そこを抜けたリビングは住人が仕事部屋にしているらしく、パソコンや書類が大きく座を占めていた。パソコン机の脇のキャビネットは鍵がかかるタイプだが、今日はキャビネットを漁るほどの時間をかけるつもりはなかった。
 配線をたどり、コンセントの位置を探る。目的のものを見つけると、膝をついてウェストバックから小さな工具セットを引っ張り出した。コンセントのカバーを外したところで、不意に強い光に目が眩む。
「はい、住居不法侵入および器物損壊の現行犯。動くなフリーズ!」
 低く、威圧感のある声はホールからだった。ホールの照明が点けられ、逆光でよく見えないが入口に誰かが立っている。
 しくじった。咄嗟にリビングのテラス窓を引き開けてベランダへ出る。だがそこで、存外高い声で制止を受けた。
「動くと撃つよ!」
 ベランダの端、大ぶりな観葉植物の鉢の影から紛れもない銃口が覗いていた。まさか、そんなことが。だが、その銃口の真贋を見極めるほどの時間は与えられなかった。射手が伏せているのと反対側…男からすれば完璧に背後から、腕を掴まれたのだ。
 背中へ捻られかけたところを下方へ転んで無理矢理すり抜けたが、行き先は当然元の部屋の中。テラス窓には腕を掴んだ誰かが立ち、玄関側…ホールにも。…袋の鼠だ。
 テラス窓がぴしりと閉められた。
「判った。降参。ホールドアップだ。だから撃つな」
 観念してゆっくり立ち上がると、両手を挙げた。そこで初めて、リビングの灯がつく。
「よろしい。自分の立場、判ってるわね? フリーライターの加持リョウジ君」
 ホールに立っていたのは、腰に届こうかという黒髪・長身の女。デニムのクロップドパンツ、白いオープンカラーのシャツという簡素なスタイルだが、その身長なのか胸囲バストの所為なのか、えらく迫力があった。化粧っ気の少ない割にその唇には血のような口紅ルージュが引かれていたが、紡がれるアルト・ドラマティコはかなりドスが効いている。一瞬、男の声かと思うほどだ。
 加持は周囲を見回した。長い黒髪の女以外は、ベランダ側に立っている無手の男は体格はいいがどう見ても高校生くらい。その後ろで、この光量ならすぐにモデルガンと判るH&Kを手にしているのは…なんとやはり高校生くらいの少女だ。キッチン側から出てきた少年ふたりも、また。こちらは得物がそれぞれ竹刀とテニスラケットときている。いまひとつ、どこまで真剣なのか判らない。
「リエ姉、終わり?」
 つまんないな、とでも言い出しそうなふうで、テニスラケットを手にしているよく日焼けしたほうが問うた。しかし、もうひとりは竹刀を握った手を緩めてはいない。
 リエと呼ばれた女は綻びた緊張感を嘆くように額に左手を遣ったが、ベルトの背部には横様よこざまに革鞘のナイフが固定されており、女の右手はそれにかけられていた。
 吐息と共にその手が下ろされる。
「終わったかどうかはこいつの態度次第ね。…トップ屋を気取るのは勝手だけど、半端な好奇心でヤバいことに首突っ込んで、ミサト泣かしてんじゃないわよ、加持?」
「…今更なんだが、俺を知ってるのか?…葛城も?」
「もういいわかった。タカヒロ、ユカリに電話して。入って貰っていいって。どうやらそのほうが早そうだわ。…ほんとにわかんないの?これでも?」
 リエがいたく落胆したようにシャツの胸ポケットに入れていたメガネをかける。ブルーライトカットグラスで、度は入っていないが。
「…深海ふかみ?」
「そうよ。メガネ外したくらいでどーしてそこまでわかんないかな。小学校ってんならともかく、大学の同期ってのに」
「そりゃリエ姉、メガネしてれば上品ジョーヒンなOL風なのに、外してたら何処の組の姐御?ってカンジだしな。実際に結構物騒なモン常時携帯してるし」
 タカヒロと呼ばれた少年が連絡し終わったか携帯をポケットにすべりこませながら笑う。玄関で呼び鈴が鳴ったので開けに行ったのだが、通りざまにリエから容赦無い肘打ちを食らって笑いが凍った。
「リエ姉、マジ痛い…」
 ともかくも玄関のドアを開けると、これもやはり高校生くらいの小柄な娘と一緒に入ってきたのは…。
「…葛城」
「加ぁ持ぃぃぃぃ~~~~!?」
 パンプスを蹴り飛ばすようにして脱ぐが早いか、一直線に加持に詰め寄ったかと思うと、盛大に締め上げた。流石に一瞬、加持の呼吸が停まる。
「まったくあんたって奴は!」
「あー、ミサト。とりあえず落ち着いて。状況整理したいんだけど、いい?」
 リエが苦笑いしながら制止した。

***

「二ヶ月ほど前からだ。ゼーレ…件の研究所の親会社だが、そこで内紛があったらしい。その所為か、十五年前の事件…隕石落下として処理された、研究所の爆発事故の資料が流出し始めた。断片的にだがな。俺はそれを調べていたんだ」
 どうにでもしてくれ、というていで座り込んだ加持が訥々と話しはじめた。周りをぐるりと高校生たちに取り囲まれており、その真っ正面には葛城ミサトが胡座で加持を睨んでいた。
「内紛?…やっぱり後継者争いってヤツ?」
 ダイニングから持ってきたカウンターチェアに座を占めて、タブレット片手にリエが口を挟む。
「キール=ローレンツ最高経営責任者CEOが急死したのがこの春先。ま、大体辻褄は合うわね」
「後継者争いの方は、俺にも正直なところ今でもほとんど中身が見えない。ローレンツCEOの牽引力が並外れてたってことだけは、よくわかったがな。多分互いの足を引っ張り合うためだろう、いままで秘匿されていた情報が、ぼろぼろと流出し始めた。その中に、十五年前に隕石落下事件で消滅した街と…新都建設に関わる利権の話も含まれてる」
「その結果…隕石落下でなく、研究所が生物災害バイオハザードに対する最終手段として、熱滅却処理を実行したことも、ある程度ネットに流れてしまった…と?」
 ソファに座を占める、本来の家主…タカミが少し疲れたような面持ちで言った。彼が最後に寝室側から出てきた時には、流石に加持も息を呑んだ。今夜のことは、最初から看破されていたということだ。こうなっては下手に隠し立てをしてもどうにもならない。
「『生存者Angels』…その情報も、ずっと伏せられていた。公式には今でもそうだ。だが、流出した情報を集約すれば、その所在程度は判る。十年程前の、『侵入事件』で散逸した『死海文書the Dead-Sea files』…あそこまではいかないにしても」
 加持の、探るような視線を瞼を閉じることで遮って、タカミは口を開いた。
「…それで?あなたは何がしたかったんです。加持さん」
「十五年前の真実」
 加持の答えは、その部分に関しては全く揺るぎがなかった。
「君らは、十五年前にあの地獄を生き延びた。だが、俺の家族は骨すら残らなかったんだ。俺一人、当日たまたま市外に出ていた所為で、俺一人が生き延びてしまった。…何が起こったかを知る権利は、俺にもあると思うんだがな」
「成程ね…」
 些か憂鬱そうに、リエがタブレットのカバーを閉じた。子供達も、最初こそ「変な動きをしたら畳んでやる」というような視線で加持を突き刺していたが、話を聞くにつけて、その表情に微妙な戸惑いが流れはじめる。あの事故で家族を喪ったというなら、立場は同じだからだ。
「…十年前の『侵入事件』。あれが、最後の手がかりだった。あの事件を生き延びた、『CODE:Angel』…その情報データを洗いざらい消す理由があるのは…その『Angel』自身に他ならないだろう?」
 加持が、タカミをまっすぐに見て言った。
「『恐怖の天使イロウル“Yroul”the Angel of Terror』…」
 それを受け止めたのは、ひどく…暗い眸だった。常はただ穏やかなマラカイトグリーンが、沈鬱な色彩を帯びている。
「…本人がそう名乗ったわけでもないでしょう。それに、その名で呼ばれる者は…もういない」
 ミサトがたまりかねたように声を荒らげた。
「加持!あんたいい加減になさいよ。あんたまだ引きずってたの」
「葛城も、父親の死の真相が知りたいって言ってただろう」
「そりゃそうだけど、矛先が違うわ。彼等は被災者なのよ」
「『侵入事件』に関しては加害者だな」
「…そーね、あなたが今回の一件に関して、加害者であるように」
 リエが腕組みをしたまま加持に向き直り、ぴしゃりと言い放つ。俄然、再び子供達の態度が硬化した。そうだ、こいつは。
「住居不法侵入、器物損壊、ストーカー規制法違反、それと殺人未遂?」
「ちょっと待て、後ろ二つは何だ!?」
 加持が腰を浮かしかけるのへ、竹刀とH&Kが向けられる。リエが少し目を細めて立ち上がる。
「…あぁ、ストーカーはこの際違うか。失礼?…でも、殺人未遂についてはまだ容疑が晴れたわけじゃなくってよ。タカミを尾行してあんたがサキのアパートに張り付いてたのは証拠があるし、その日の昼じゃあ…疑われても仕方ないんじゃない?」
「だから、何のことだ!」
 リエの両眼が俄に凄味を帯びる。それは、殺気と言ってもよかった。
「サキを殺しかけた件を言ってんのよ!」
 カツミ…竹刀を握っていた高校生が、弾かれたように身を乗り出した。肚に堪こたえるようなリエの声量にビクついたわけではない。
「うわ、リエ姉、今ここでそれ言っちゃ…」
 しかし、リエはカツミの制止をきっちり無視した。
「カヲルも巻き込まれたし、シャレになんないわ。あんたがゼーレから零れた情報をもとに『侵入事件』を嗅ぎ回ったり、余計な色気出してここに盗聴器仕掛けようとしたくらいのことだったら、同期と類縁業者のよしみでミサトに通報、ってとこで終わってもよかったんだけど…うちの総領ボスに一体何してくれてんのよ。事と次第によっては、警察に突き出すだけじゃ済まさないわよ!」
 リエの台詞に衝撃を受けたのは、加持だけではなかった。
「…ちょっと待って。それって…!」
 タカミの声が上擦る。カツミがあーあ、といったふうに頭を抱えた。
「リエ姉ってば…よりによってここでそれ言う? …あーあ、タカミってばやすいコピー用紙みたいな顔色になっちゃって…」
「待て、何のことだ。殺しかけた…って、高階マサキをか!? 俺じゃない!俺じゃないぞ…俺は知らん! 大体、俺は十五年前の真実が知りたいんだ。知ってる可能性の高い『CODE:Angel』を殺してどうする。絶対に、俺じゃないっ!」
 リエは蒼白になって首を横に振る加持を冷徹に観察していたが、ややあって不意に落胆したようにカウンターチェアに腰を下ろす。
「うーん、やっぱりこの件についてはハズレかぁ。そうよねえ、何かタイプが違うもの」
 カツミが竹刀を放り出してタカミの傍らに膝をつき、ブーイングをあげる。
「やっぱりって何、やっぱりって!…とりあえずこの始末、一体どーすんのさ! わ、タカミ、大丈夫だから! サキもカヲルも、もう大丈夫って! 黙ってて悪かったよっ!病院行けば判るから!」
 眼を見開いたまま硬直しているタカミを揺さぶるカツミも必死だ。
「…説明、してもらえますよね?」
 ? ?カミが、ようやくゆっくりとそれだけ口にしたのは、ある程度時間が経ってからのことであった。リエは面倒臭そうに黒髪を掻き回すと、口を開いた。
「ま、コトが終わるまでって約束だったし…どうやらサキの謀殺未遂については加持コイツはシロみたいだしね。…さて、そーなると謎が増えちゃうんだけど…」
「…何が、ありました?」
「それについちゃ、朝まで待って貰える?コトが終わるまであんたには報せるなってのはサキの厳命だし、サキからきちんと説明して貰うわよ。…サキとカヲルはまだ病院よ。この時間に押しかけたって面会は無理。朝を待って頂戴。…あー、ミサト。どうする? 加持をシメるのは後回しにして、病院に来る?」
「迷惑承知でお願いするわ。…私も、知りたいし」
「OK…。ま、当然よね。ミサトだってお父さん亡くなってるんだし。いいわ、皆で移動しましょ。
 …と、その前に休憩ブレイクよ」

***

 朝になって一同がその病室に行った時、二人部屋として使われるときに引かれているカーテンは、ほぼフルオープンだった。二つあるベッドの一方ではカヲルが健康的な寝息を立てて眠っており、もう一つにはマサキが座している。
「…概ね、薬の影響は抜けてる。とりあえず、談話室にでも移動しよう。夜半までやかましかったんだが、やっと眠ったから」
 マサキが立ち上がりながら、後ろのベッドを指した。朝食が終わり次第帰ろうという算段か、マサキは既に病衣を着替えている。その御陰で入院中というより入院した子供に付き添う父兄、というていではあった。
「…もういいんですか、サキ」
 そう問うタカミのほうが未だに、カツミが言うところの「廉いコピー用紙みたいな顔色」のままだったから、マサキは苦笑するしかなかった。
 ユカリとミスズがカヲルについていると言い、談話室に移動したのはマサキとタカミ、リエの他、ミサトと加持である。
 とりあえず二人の無事を自分の目で確認して安心したのだろう、タカヒロは「荒事がないんならもう俺達用なしだよな?」とタケルを引きずって帰って行ったし、カツミは「俺、修羅場に立ち会う趣味ないから」とこれも帰って行った。
「…んで?加持さんとやら。特定秘密保護法違反でしょっぴかれる危険を冒してまで、こいつのマンションに盗聴器仕掛けようとした成果はあったかい?」
 談話室に座を占めて開口一番、マサキからとことん胡散臭いものを見るような視線を真正面からぶつけられて、流石に加持は鼻白んだ。
「…特定秘密保護法…」
「あれだけ嗅ぎ回っといて今更気づかなかったとは言わせんよ。…こいつの勤め先だって知ってるはずだ」
「研究開発法人とは聞いてる」
国立・・のな」
 マサキの補足に加持の顔がさらに白っぽく変色していくのをみて、マサキがやれやれという風にリエを見遣った。
「…ひょっとしてリエ、そこから説明が必要なのか、この御仁には?」
「どーやら判ったみたいだし、そこは省略でいいんじゃない?」
 隣でリエが缶コーヒーを傾けながら暢気に足を組み替える。
「俺んならともかく、国家機密級のプロジェクトに身を置いてるこいつに盗聴を仕掛けるってことが…外交官の家に同じ事するくらい物騒だって理解して貰えればとりあえずよしとしよう。…ったく、下手すると公安が動くとこだった」
「サキんとこはサキんとこで…困ったもの聴かれそうだけどね。ま、困るの私じゃないし」
 リエがさらりと半畳いれたのを、マサキは鄭重に黙殺した。
「俺達が、周囲を嗅ぎ回ってる奴らの何を警戒してたかって…公権力なんぞ屁とも思ってない奴らが相手だった場合のことだ。…まあ、この場合ゼーレだな。そうだとすると今更一体何なんだって違和感はあったが、成程ね。知らないってコトは怖いもんだ。
 あんたが死海文書の切れっ端をどの程度手に入れたか知らんが…とりあえず、『侵入事件』とタカミを結びつけた理由から訊こうか」
「…リッちゃんだよ」
 ぽつり、という感じで加持が口を開いた瞬間。かぁん!という鋭い音が談話室の静寂を突き破る。缶コーヒーが談話室の白いテーブルにぶつかった音だった。
「呆れた!加持あんた、リツコに揺さぶりかけたわけ!?」
 ミサトが立ち上がって加持の胸ぐらを掴みあげる。
「ミサト、声でかいわよ。ここ病院」
 リエにたしなめられてミサトが思わず両手で口を覆う。解放された加持はのろのろと席に腰を下ろすと、小さく吐息した。
「…っていうことは、赤木女史が件の研究所に関わってた事実は…あんた方にも認識されてたってコトだな?」
 マサキの言葉に、応えたのはミサトだった。
「秘密でも何でも無いわよ。リツコのお母さんってあの研究所のプロジェクトリーダーとかだったんでしょ。結構有名人じゃない。リツコはあの通りの切れ者だし、お母さん尊敬してて仕事も手伝いたいって子供の頃から言ってたもの。だから、あの事件はリツコにとってもショックだったみたいよ? まあ、こいつだって天涯孤独になっちゃったし、うちも父さん亡くなったし、あの事件って私達にとっちゃ、結構タブーな話になってたのは確かね。…だからこそ、私怒ってんだけど」
 声は冷静に、拳骨を加持の頭頂部に当ててぐりぐりと捩る。
「…ごめんね、榊君? 顔あわせんのは今日…じゃなくて昨夜ゆうべが初めてだけど、私、あなたのこと実は大分前から知ってるの。リツコは私みたいにベラベラ喋んないけど、いいひといるんだなって、なんとなく知ってた。
 だから、いつだったか訊いてみたのよね。そしたら彼女、話してはくれたけど…あの事故自体にリツコが関係あるわけないのに、自分が研究所に関わってるってことで、あなたがAngel-11だっていう興味で近づいたって思われるとちょっと辛いわねって」
「…え?」
 思いがけない言葉に、タカミが継ぐ言葉をなくす。
「…だのに、デリカシーのない莫迦が生存者CODE:Angelだってェだけで『侵入事件』の最有力容疑者みたいに榊君のことつけ回したり、剰え結構その事故に関することでなんだかちょっと気に病んでるっぽかったリツコに『こんなの知ってる?』的に古い資料を見せびらかした訳よね。…そーなのよね?」
 もはや、加持の頭にはミサトの両拳が食い込み、更に捻込まれつつあった。一言もない加持がじわじわとテーブルに沈んでいく。
「…『なんだかちょっと気に病んでるっぽかった』…?」
 リエがふと顔を上げてミサトの台詞を反復した。そしてすぐにマサキに目顔で問う。
「…そりゃ夏のコテージの一件からこっち、どっかの莫迦が彼女からのメールに返信してないからだろ」
「何でサキがそんなこと知って…!」
「あ、違う違う。もう少し前…この春くらいかしらね」
「へえ、春…ね」
 マサキが考え込むように視線を宙に投げ…俄に腰を浮かせた。
「…タカミ、あのな」
 言いかけて、一旦口を噤む。そして、どうにでもなれというように細く息を吐いて、腰を下ろした。
「…迂遠なのは懲り懲りだ。とりあえず、それについては彼女の話を聞こう。退院の手続きもさせて欲しいしな」
 そう言って立ち上がる。マサキの視線の先、談話室の扉の前に、青いカットソーの上から白衣を羽織った女性が立っていた。

TO BE CONTINUED


Akino-ya Banka’s Room
Evangelion SS 「Angel’s Summer」


「夏服 最後の日 」reboot に関するAPOLOGY…..


加持さん、ごめん!

 さて、でてきました使徒エンジェル組。

 reboot版は家主が十ン年越しに書き上げた「すべて世はこともなし」に触発されたので、皆さんそっちから流入です。このため、多少の設定変更が入っておりますが、詳細は設定書をごらんくださいまし。

 みんな、オモテみたく特殊能力者ではありません。ミスズちゃんは天使な狙撃手スナイパーというよりただのガンマニアな女子高生で、カツミくんは某氷の聖闘士みたいな特技は無くて割と常識的な高校生です。どのくらい常識的かというと、不審者を成敗するから得物エモノもってこい、といわれたらとりあえず竹刀持って出るくらい。…まあそんなもんです。テニスラケット持って出るタカヒロくんは完全に状況を取り違えてますのでお気になさらず。まあ、これもキャラですから。

 リエ姐さんはイメージとしてハミュッツ=メセタ(「戦う司書」)ですね。セクシーで迫力ある美女。常にベルトにシースナイフが仕込まれているという刃物好きでちょっとアブナイ姐ちゃん。化粧っ気なくてルージュしかひいてないけど、めっちゃグラマーで武闘派。広告代理店勤務のコピーライターとは世を忍ぶ仮の姿…かも知れません。情報通&情報操作の達人で、このヒトをマジで怒らすときっと社会的&物理的に闇に葬られます。ミサヲちゃんとはまた別の方面で、サキの良き補佐役ですね。
 サキを総領ボスと認識して一目も二目も置いてますが、地獄耳&千里眼で察しがいいのでサキとタカミのことも概ねカンづいてます。だから、「困ったもの聴かれそう」などということをサラッと言っちゃうんですが、別にだからどうということもないあたりがミサヲちゃんとは違います。

 それにしても申し訳ない扱いになってしまったのは加持さん。今回まったくイイトコロがない。イイ想いもしてない。…うーん不本意だ。
 サキ、受難続きですね。独りで苦労背負ってる感じです。…収支あってるかい?
 それでは皆様、次回まで万夏が正気でいたら・・・・・いや、何も申しますまい・・・・・・(^^;

2017.7.29

暁乃家万夏 拝