恋することが、みんな
幸せなら
いいのに
・・・・・・・・・・・・Why do you weep?
Akino-ya Banka’s Room Evangelion SS
「Why do you weep?」
Scene 1 君の声が聴こえる
身体を寄せあうときのあたたかさが慰めになるなんて、欺瞞だ。
***
”構成物質の28%の焼却に成功”・・・・・・・か。
榊タカミは侵入を察知されないうちに素早く回線を切った。
パソコンを終了させ、椅子を返して薄明の空を見る。
ディスプレイの光に慣れた目に、空の色は痛みすら与えた。思わず目を閉じて、大きく息をつく。
N2兵器で受けるダメージというと、まあこのくらいのものだろう。サキエルの時とは使用された量が違うのだ。意識はあるのだろうか?あったとして、身体を再構成したあとに、どれだけコンタクトがとれるものなのだろうか?
こればかりはNERVの資料を盗み読みするわけにもいかない。リリンは知能の存在すら疑問視しているのだ。
眉間を軽く揉んで、軽く伸びをする。
「・・・・・・やっぱり、行くのかい」
肩越しに、無愛想な客人に問う。
「ついてきてくれとは言ってない」
もはや腹を立てることもできないほど正直な反応に、やれやれ、というように肩を竦めた。
「ここから駿河湾まで歩いていくのかい?やめとけよ、その足で箱根越えなんかできる訳ないだろう」
立ち上がりながら、額縁に擬したキーケースに手を伸ばす。
取り出したものが何かに気がついて、カヲルは意外そうに言った。
「・・・・・車なんか、持ってたのか」
タカミは苦笑した。
「そんな、びっくりしたみたいに言うなよ。・・・・時々第2東京にもどらなきゃならないんでね。そういう時しか使ってないんだが。
・・・・・わかってると思うが、現場周辺はNERVが固めてるし、僕のIDじゃ入れては貰えないだろう。仮に何かの手違いで水際まで行けたとしても、近づけるとは限らない。いいね?」
黙ったまま、カヲルが頷く。その思い詰めたようなまなざしに感じた何かを、タカミは言葉にしようとして、やめた。
***
同じ寂しさを見たと思ったのは
己の傲慢だろうか?
***
とりあえず御前崎方面へ向けて車を走らせる間に、先刻の地図が戦自のN2兵器の使用によってすでに書きかわっていることがわかり、急遽石廊崎方面へ進路を変えた。
「・・・・・まあ、NERVも駿河湾全体を封鎖するほど人員あり余ってないだろうし、石廊崎側から海沿いに近づけば非常線にあたる前にかなり近づける。運がよければね」
それにも、カヲルは言葉を発する事無く態度のみで肯定した。およそ、元来多弁な質とはいえないにしろ、ここまで極端に口数が少なくはなかったはずだ。
顔が青い。
「車酔いかい?」
「すこし気分が悪いだけだ」
それはいわゆる車酔いだよ、と言いかけて、口をつぐむ。
「・・・・・車を止めるよ。すこし、風に当たったほうがいい」
タカミは、旧道をまっすぐ整備した際につくられたと見える小さな公園に車を入れた。停められる車は高々4、5台というところだろう。アスファルトの隙を煉瓦で囲い、常緑樹が植えられている。そこから西に向かって、海岸線沿いに遊歩道がしつらえられていた。これもおそらく旧道の成れの果てであろう。
公園と言うより少し広めの駐車帯ではあったが、自然石を組んだベンチもある。車から降り、カヲルはそれにかけた。
海面を渡る、潮の香を含んだ風は心地好い。つい数十キロ先で戦闘があったなど、信じられないほどに穏やかな風景だった。
「・・・・・・様子を見てくるから、ここで待っててくれ」
そう言い置いて、タカミは遊歩道へ足を向けた。
―――――――やれやれ、我ながら何をやっているんだか。
疑われるような行動は、極力避けてきたつもりだった。ところがこの数日ときたら。
だがそれもまた紛れもなく自分の意志であるのだから仕方がない。
運命の子とおなじ匂いを持つ存在。渚カヲルの名を与えられた存在―――――――。
自分と同じ寂しさを見たと思うのは、傲慢だろうか。
イスラフェルの戦いに、タカミは格別の感慨を持つことはなかった。悪く言えば慣れてしまっていた。いずれ変えられることのない運命、抗いようのない・・・・・・
だから、それに感情を揺らすことのできるカヲルが羨ましくもあった。
《イロウル》の記憶の中のイスラフェルは曖昧だ。しかし、カヲルにどう接したのかは想像に難くない。そしてカヲルにとっても、彼女が特別であったのは間違いないだろう。しかし、彼女がカヲルに与えた優しさは、カヲルを追いつめていた。
何らかの理由で、封鎖されている記憶。それを、イスラフェルに接触することで取り戻しかけているのだ。
なまじ知らねば、苦しむこともなかっただろうに。
イスラフェルにその意図があったとは考えにくい。ただ懐かしさに惹かれて接触するうち、カヲルがイスラフェルの裡から読み取ってしまった。そんなところだろう。
彼女は、二度とカヲルの呼びかけに応えることはない。カヲルだけが取り残されていくのだ…
車載端末に入った情報はこの先2kmでの封鎖線の存在を知らせていた。それを視認して、タカミは足を止めた。近寄れば、職務質問では済むまい。…民間人が立ち入れるのは、まずここまでだろう。
発見されないうちに、タカミは車を置いた場所までとってかえした。
石のベンチに上半身を横たえているカヲルの姿を見つけ、足を早める。
「大丈夫かい」
その額には冷汗が浮かんでいた。それでも、タカミの姿を認めて身を起こそうとする。
「・・・・・・・・車に戻ろう。こんな冷たい石の上じゃ、余計気分が悪くなる」
その言葉にも、静かに首を横に振るだけだった。
おそらく、彼には聞こえているのだ。イスラフェルの声が。
言葉ではなく、声。それは彼にとって、ひどくつらいことに違いない。近づけば近づくほど、それははっきりしてくるのだろう。身体の1/4を焼かれ、死にもの狂いで自己修復する彼女の、苦しみの声が・・・・。
「・・・たい・・・・」
か細い声は、最初聞き取れなかった。
「唯もう一度でいいから・・・逢いたい・・・逢って話がしたい・・・」
それが叶わないことは、彼が一番よく知っているはずだった。膝の上の拳が、小刻みに震えている。白い頬を伝い落ちた水滴が手の甲ではじけた。
タカミは、それを見ない振りをした。・・・しようとした。が、できなかった。
「・・・やめるんだ!」
咄嗟に、声が大きくなる。何が起きつつあるかに気がついたのだ。白い手の甲が、急速に赤くなりつつあった。・・・丁度、火傷のように。
際限のない同調は、感覚としての苦痛だけでなく、物理的な傷を再現する。イスラフェルは、再構成した身体だからそれでも生きているが、同じ傷をカヲルが負ったら。
涙痕を残す手背の変化が、止まる。
急速に発赤が消退していく手に掌を重ねて、ゆっくりと…噛んで含めるように言い聞かせる。
「…よせ…どうなるものでもないだろう、こんなことをしても…」
カヲルは、答えなかった。
「ここまでだよ。もう帰ろう。NERVの封鎖線はすぐそこだし、これ以上近づいたら、君は彼女に巻き込まれてしまうだろう」
顔を上げることはせず、ただ声も立てずに肩を震わせる。
妬心に似た痛みを感じて、タカミは目を逸らした。
***
悪い酒だな。
自分のことを棚上げにしていることは十分承知していたが、そう思わざるを得ない。
キッチンカウンターに凭れて、タカミはグラスの中の氷を揺らした。だが、見ているのはグラスの底に残った琥珀色ではなく、その向こうに歪んで映るカヲルの姿である。
服だけは、パジャマ代わりに貸したシャツに着替えているが…リビングの長椅子に座を占めて、もう随分な時間になる。そこが数日来の彼の寝台でもあったが、いまだ眠りにつくなど思いも寄らぬふうであった。
最初はただ、タカミ自身が今日の後味の悪さを明日に持ち越すまいとして…本当に、寝酒程度に飲むだけのつもりだったのだ。タカミがいつもと違うものを飲んでいることに気づいたカヲルが、それを強請るまでは。
子供が飲むものじゃないよ、と言ってみて、その概念から説明しなければならないことに気づいて…有り体に言えばタカミは面倒臭くなった。
自分がそれほど強い性質でないのは十分理解していた。もう、既にして回っていたとしか言いようがない。
『一杯だけだよ?』
睡眠薬程度に含ませるつもりだった。…眠ってしまうべきだ。辛い記憶も、嫌なこともすべて棄て措いて。それでも、朝はやってくる。
しかし、甘く…口当たりの良い類のものであるとはいえ、度数は決して低くない。それなのに、カヲルはまるでジュースでも飲むような勢いでグラスを空けてしまう。…代謝が異常に早い。通常の人間のレベルを軽く通り越している。
ああ、そうか。
気づいた時には、些か遅きに失していた。
代謝が早いということは、殆ど酔えないということだ。酒精がもたらす酩酊が、ひどく短い。あっという間に醒めてしまう。体質とはいえ、不憫なことではあった。
それでも束の間の、その感覚を求めてしまう。
これは不味い、と痺れた思考回路が警鐘を鳴らす。ある種の薬物依存より始末に悪いかも知れない。
理性で処理しきれないつらさを紛らわす薬としては、酒は決して悪いものではない。己の経験で、タカミはそう思う。しかしそれも、限度を越えなければの話だ。
タカミとて、気分がよくなる程度で切り上げるのが最良であることを知っている。また、滅入った時に深酒するとろくなことにならないことも十分承知していた。…そのタカミ自身が、カヲルの尋常でないピッチにつられて量を過ごしていた。
「…そこまでだよ。もう、おやすみ」
氷がなくなってしまったことに、ようやく気づいたらしい。グラスを見つめ、止まってしまったカヲルの手から、タカミはやんわりとグラスを取り上げた。そして、いつの間にかリビングテーブルに移動していた瓶も。
タカミがリモコンを操作し、シーリングライトを消した。あとは、シェードの隙間から差し込むあえかな月光と、家電類の待機ランプの細い光。
薄闇の中で、カヲルが理不尽なものでも見るようにタカミと、取り上げられたグラスを見る。
責めるというより、どこか悲しげなふうでさえあった。泣き出さないのが不思議なほどの悲愴感。しかし、それも一瞬。視線を逸らして、ソファに身を沈める。
それらを見ない振りをして、タカミはキッチンカウンターへ足を向けた。
決して弱音を吐かない横顔。そのくせ、ここに居ない誰かを求めて、声を上げず、涙を落とすこともなく泣いている。
辛いだけの想いと知っていて、それでも諦めきれなくて。
こんな横顔を、タカミは知っている。
…涙の通り道にある黒子。
あのひとが…こんな表情を見せてくれたことはない。あのひとにとっては、きっと自分など名前と顔を知っている程度の人間でしかないから。
辛いだけの想いと知っていて、それでも逃れられなくて。
―――――恋することが みんな 幸せなら いいのに。
それは、ただの希望。
それがひどく哀しくて、苦しくて。踏み出すことさえできないままだった。多分このまま…自分は時を迎えてしまうのだろう。あのひとに、何一つ告げることも出来ないままに。
どうすることもできない。あのひとにとっては…自分は敵だから。殲滅すべき対象。
そうなりたくないと、思う。まだ、引き返せると。…14歳で一度死んだ「榊タカミ」としての記憶がそう囁く。
ずっとここに居たい、と思う。想いが届くことがなくても。
だが所詮は、抗うことさえ叶わぬ上位者の計画。自分の裡で刻々と進んでいく変化は、それを否応にも思い知らせる。…楽園の記憶はそう呟く。
いずれ逃れられないなら、せめて一度、この腕であのひとに触れたい、と思う。あのひとに殺されることになっても。
空転する思考が止められない。眩暈さえ感じながら、やっとのことで瓶とグラスをカウンターへ戻したタカミは、両眼を閉じて眉間を押さえた。床に膝をついてしまいそうになるのを、肘をカウンターで支えることで寸前でとどめて、眉間を押さえた手を離す。
くすんだ薄闇、曇った視界に、ふと…鮮烈な紅瞳がこちらを見ているのが映った。
「…どうかした…?」
人を振り回しておいて、その眼差しはあくまでも透明。さっきまでの悲愴感は何処に行ったのかというような。…しかし、こころもち不安げにも見えた。多分、この間見てしまったものの所為。リリンと融合した身体が、少しずつ使徒に引きずられてゆく…その変化は、少なからず凄惨である。他の皆もそうなのか、自分という特殊事例のみのことなのかは判らないが、あの時のカヲルの動揺からして後者というのが妥当だろう。
違うんだよ。タカミは苦笑する。これはそんなのじゃない。
酒精のもたらす熱と。身の裡で揺り起こされた熱と。…誰の所為だと思ってるんだろうね。そんな、少し尖った台詞をタカミは寸前で呑み込んだ。代わりに、熱を逃がすように細く息を吐く。
もう一度、ソファの傍へ戻る。ソファの背後、テラス窓のシェードをすこし傾けた。月光が遮られ、闇が深くなる。
「すこし、眩暈がしただけだよ。僕も少し、量を過ごしてしまったみたいだ。もう、終わりにしよう。これ以上はよくないよ?」
ソファの後ろから銀色の頭を軽く撫でた手は…そのままカヲルの顎を捉えた。
滑らかな頬を指先でなぞる。
「それとね、カヲル君。ふられたばかりの三十男の前で、そんなあぶなげな表情をしてみせるものじゃないよ…?」
軽く仰向かせて、唇を重ねる。
抵抗はなく、静かな戸惑いだけがそこにあった。ひどく静かな、数秒。
「…ATフィールドではじき飛ばされるかと思ったよ」
ややあって離れたタカミがその唇を苦笑の形に歪めても、カヲルは笑わない。
「何のことか判らない。…でも、あたたかいのは、嫌いじゃない」
目を伏せて、言葉を続ける。
「あなたは、入ってこない。だから、イヤじゃない」
タカミは、一瞬遅れてその意味するところを諒解した。
ひとりは怖いけれど、心に触れられる事も怖い。
閉ざすことに慣れてしまったタカミは、身体には触れても、心に触れようとはしない。つまりは、そういうこと。タカミは苦笑するしかなかった。
普通なら最低と詰られてもしかたがない事のはずなのに、彼は言うのだ。『だから、イヤじゃない』と。
コントロールが甘く、ひどく発動閾値の低い同調能力の所為か。おそらく、普段は極力不用意な身体的接触を避けているのだろう。それが今、これだけ触れていても働かないのが不思議なのだ。誰かに触れている…触れられているというフィジカルな感覚が。
ゆっくりと顔を上げたカヲルが、やおら腕を伸ばすとタカミのシャツの襟を掴んで引き寄せた。肌に当たる、幽かに震えるほどに握りしめられた冷たい指。
同調能力が発動しないことに安心したのだろうか。途端に触れることに遠慮がなくなる。今度はカヲルの方から唇を重ねてきた。先程の行為をなぞるような、不器用な口付け。
そして縋りつくような紅瞳を僅かに潤ませ、区切るように…自身でそれを正しい意味で口にしているのかどうか、危ぶむような口調で訴えかける。
「…身体が、内側から凍っていくような感じがする。呼吸が…苦しい…わからない…」
その感情が冠する名前を、タカミは知っている。しかし痛ましいほどに見開かれた紅瞳に、それを今教えても多分…詮無いことだ。
掛けるべき言葉もなくて…襟を掴む手を柔らかく包むと、襟から指先を外させた。代わりに自分の身体をソファに…カヲルの隣に滑り込ませて、ただ抱き寄せる。そうして、雑に引っ張られたことで乱れた襟元に、カヲルの冷えた頬を触れさせた。
紅瞳が湛えていた涙が零れ落ちて、シャツの襟を濡らした。その部分を、カヲルがもう一度掴む。
抱き寄せられたことでバランスを崩した訳ではなかった。
カヲルの指に襟元を押し広げられ、ゾクリとしたが…タカミはそれを押しとどめたりはしなかった。
すこしかさついた唇が、心臓に近い部分の体温を求めて寄せられる。そのおずおずとした動きとは裏腹に、冷たい指先にはシャツの釦穴の固さに焦れて釦を引き千切りかねない力が隠っていたから…タカミはそっと手を添えて釦を二つばかり外した。
そこから滑り込んだ指先の温度に瞬間、呼吸を詰める。
抱き寄せられることで宙に浮いたカヲルの下肢が肘掛けの上で跳ねて、かすかにソファを軋ませた。身体が沈んでいくような感覚に少し怯えたのか、タカミの背に腕を回してしがみつく。そして、首筋の熱を探るように唇を寄せてきた。
カヲルの身体が安定するように、わずかに下肢の位置を変える。
触れていることで得られるあたたかさが、刹那といえどこの子の救いになるなら。否、それは非道い言い訳。仕掛けたのは狡い自分だ。…ただ、寂しいから。誰かに触れていたいから。
手の届かないものに手を伸ばし続けることに、すこし疲れてしまったから。
***
こうじゃない こんなはずじゃない
こんないい加減なことじゃない
はずじゃない
わからない
わかりきったことわかりたい
わかるわけじゃない
はずじゃない
どうしたい どんなことしたい
どんなことできるか知りたい
いま知りたい
わからない わかりたい
わからないこと
わかりたいほど わからないもの
***
狂熱はゆっくりと冷めてゆく。カヲルは吐息して、タカミの首に回していた腕をほどき、弛緩していく身体を…やや伏せがちにタカミの腕の中に横たえた。 狭すぎる褥から滑り落ちそうになって、タカミに支えられる。
そうして目を閉じたカヲルの銀色の髪に、タカミがそっと手を触れた。
それは繊細な美術品を扱うような柔らかな所作であったにもかかわらず…不意に、カヲルが目を見開いた。
汗に濡れた髪の下からタカミをを不思議そうに見上げ、身を返す。その所作に、かえってタカミの方が驚いていた。
「…どうしたんだい?」
まじまじと見つめ、手を伸べて…タカミの頬に触れる。そして、不思議そうに問うた。
「…悲しい…? 何故?」
その言葉に、髪に触れているタカミの手がビクリと震えたのを、カヲルは間違いなく感じ取っていた。
「…油断も隙もないね、何か見えた…?」
タカミの自嘲の色濃い台詞に、カヲルが首を横に振る。
「…一瞬、感じただけ…もう読めないし…」
「そう…君が気にすることじゃないよ」
そうして、あからさまにはぐらかすかのような口付けを落とす。
***
寂しさが代償を求めたのだとしても、この子がそれを望むなら、この刹那、身を寄せあうのもいいだろう。
その悲しさに気づくのが、仮にはるか先のことであったとしても。
触れるだけのあたたかさに縋りたいのは、自分も同じ。
自分もまた、もう疲れている。
叶うことのない想いに身を灼くことにも。
いつか訪れる、明けることのない夜に怯えることにも。
結局逃げている。拒まれることが怖くて、居場所を失うことが怖くて。
いつまでも、逃げられるはずが無いのに。